倒産処理と弁護士 【改定】

わたしは倒産処理のコンサルタントとして、28年間で1000件ほどの相談に対応をしてきた。
その間、依頼人の方が連れてきた弁護士や、若手老練を問わず弁護士からの売り込みも含めてたくさんの弁護士に会った。
なかには「非合法もやります」とはっきり言った弁護士もいた。

では、わたしが弁護士をどう思っているか。
このことはちょっと書きにくいのだが、正確に書いておこう。

倒産処理に弁護士は欠かせない

法的処理の[法人の破産」については、申立て代理人、破産管財人。それぞれ弁護士でなければできない。

申立て代理人については金融機関との交渉に必要な“代理権”が弁護士にしか認められていないうえ、地方裁判所は弁護士が代理人になっていないと申立てそのものを受け付けていただけないので、弁護士以外の選択肢はない。

破産管財人については地方裁判所から委嘱を受けて、準公務員的な立場が与えられるのだから致し方ない。
私的処理の[任意整理]も、これに準ずることになる。

この領域は弁護士の独占領域なのだ。
弁護士の資格を持っていないと全く参入できない。

この領域に弁護士以外が入ってくることはちょっと考えられない。
それはそうだろう。
非合法の人たちが入り込んで来たら、倒産処理はめちゃくちゃになってしまうことだろうから。

将来、あるとしたら国家資格の[倒産処理士]などの資格を設定してその有資格者に開放することは考えられるが、あまり現実的ではない。

倒産する者の視点から見ると、申立て代理人の費用も、破産管財人の費用も破産者(倒産者)が払っているにもかかわらず、必ずしも破産者の利益を優先していただけないという違和感があることだろう。

破産管財人の費用が国から出ていると思っている人は多いが、実は予納金のほとんどが破産管財人費用なのだ。
さらに、破産者の財産処分で得られたお金の中から裁判所の指示で破産管財人に与えられるものも多いのだ。
詳しくは、[破産管財人が得た最高報酬]を参照。

申立て代理人の対応領域の不可侵領域

申立て代理人の弁護士が、依頼人から要請を受けた場合、大きくは二つの対応領域がある。

破産の申立て作業

法人の破産の申立てをする場合は、依頼人から経営資料を出してもらい、かついくつかのヒアリングをして弁護士が『申立て書』(地裁の規定に合わせた既成の書式]を書き、[委任料]を受領することになる。

この段階で、申立てには地裁に収める【予納金】(破産管財人の費用と考えていい)、と申立て代理人に支払う【委任料】の両方が発生することを知り、その費用がまかなえなくて申立てができなくなることも多い。

この委任を受けた段階は、依頼人の倒産の意思が決定した段階とみなされるため、受任した申立て代理人の弁護士は[詐害行為]や[偏頗弁済]に関わる相談には一切乗ってくれなくなる。

なぜならば、地裁が選定した[破産管財人]に対して、依頼人の代理人として対峙する以上、[詐害行為]や[偏頗弁済]を容認したとみなされるようなことはできなくなるのだ。

そのため、[詐害行為]や[偏頗弁済]に抵触しそうな問題をはらんでいる場合には受任を嫌がられることがある。
時間的余裕のある【予知倒産】の場合は経験量が少ない弁護士でもなんとかはこべるが、【切迫倒産】の場合は経験量が少ないと対応がおぼつかなくなることが多い。

予知倒産と切迫倒産についてはこちらをご参照ください。

経営相談(破産相談)

現状の財務事情から、破産処理に至るまでの経営相談に対応するのも弁護士の領域である。
この経営相談は、当たり前のことだが経営が判らないと相談にならない。

場合によっては[詐害行為]、[偏頗弁済]に関わることが内在する場合もあるが、依頼人が倒産の意思を決定する前の段階の経営相談であれば、どうするかを一緒に考えてくれるのも弁護士の領域だ。
これは、委任前の[経営相談]で、相談料金(おおよそタイムチャージ)を支払う。

さらには、申立て前処理にも対応してもらうこともあり得る。
ところが、[破産申し立て]を委任することになると、[破産管財人]と対峙することになるので、この委任前の経営相談申立て前処理の段階から申立て代理人の弁護士が対応しているということになり(その弁護士の領収実績が判ると)、その段階から弁護士が介在していることの証明になり、破産管財人からその段階から[破産の意志]が決まっていたとみなされ、その日以降の会社や代表者のお金の動き(入出金)は[詐害行為]や[偏頗弁済]の対象になると指摘されてしまうのだ。

よって、[詐害行為]や[偏頗弁済]に関する相談には乗ってくれない弁護士が多いのだ。

経営相談を持ちかけても、「それはできない。この段階から一切資金移動をしないで申立てましょう」と言われることが多いのだ。
つまり、依頼人の利益を守るような経営相談には乗っていただけない、ということがよく起る。

それは【予知倒産】でも対応していただけず、ましてや【切迫倒産】では言うまでもない。
弁護士にとっては、受任した仕事を淡々と行う方がリスクが少ないのだ。

[詐害行為]や[偏頗弁済]関連は不可侵領域

こうしてみると、弁護士は依頼人の利益を守る立場ではなく、受任した仕事を淡々とこなして報酬を得るだけだ、ということがお判りいただけるだろう。

少なくとも[詐害行為]や[偏頗弁済]など、弁護士にとって不可侵領域についても相談に乗っていただける弁護士を探さなければばらないのだ。

このことから、委任前の[経営相談]申立て代理人の委任同じ弁護士にはお願いできないという、不可思議なことになってしまう。

すべての弁護士が破産処理できるわけではない

弁護士は自ずと得意領域と不得意領域があり、倒産処理がこなせる弁護士はおそらくは少数派だ。
倒産案件を年に二件以上毎年こなしている弁護士は、わたしの直感だが百人のうち数人だと思われる。地方都市ではもっと少ないだろう。

倒産(法人の破産)の判例は公表されない

倒産(法人の破産)は犯罪ではないため地方裁判所は経由するが、裁判ではないためその結果(判例)は存在しない。
つまり、法人の破産の判例は公表されることはないのだ。
では、申立て代理人の弁護士はどうするか。先輩や同輩の弁護士に聞くしかないのだ。もちろん、簡単な手引書の類はあるが経験がない弁護士には手に負えない領域なのだ。
破産管財人は、地裁で研修会などがあることもあるが、これも一定のキャリアがなければ務まるものではない。
法人が多い東京や大都市では法人の破産も多いので何とかまわっているが、地方都市になるといろいろな不都合が出てくるということはよく目にもする。

・弁護士は、倒産(法人の破産)を実際に経験しなければ運用が判らない
もし、未経験の弁護士が倒産(法人の破産)の相談を受けたら、先輩や同輩に聞きに行ったり、参考書を参考したりする以外に方法はないのが実情なのだ。
では、倒産処理の経験量の少ない弁護士に相談に行くとどうなるか。

・何が何でも法人の処理と代表者個人の[破産]を勧める。
理由は、その作業は破産の申立て書を作成して破産管財人に繋ぐだけで、比較的簡単な作業だからだ。

・倒産処理の相談に乗ってくれない。
[偏頗弁済]や[詐害行為]に抵触しそうな要件や、再起のために確保する[現金]などのデリケートな要素は対応してくれない。

・再起についても無関心だ。
弁護士は、[倒産処理]までが役務で、その先まで関心を払おうとはしない。
そのような弁護士に当たると、弁護士の商売に寄与させられることになることがほとんどなのだ。

[偏頗弁済]や[詐害行為]などの対応

当事者にとって極めて大事な[偏頗弁済]や[詐害行為]に対しては、当事者の利益を守る立場で対応していただきたいのだが、なかなかそういう弁護士はいないものだ。

倒産の経済的な局面は、破産者が債務超過になっているので支払いきれない(返済できない)債務を抱えている状態の中で、破産者の財産を換金し債権者に配当するということだ。

そうした局面にあっては、破産者の利益を最優先することはできないということはうなずけるが、破産者の希望が全く聞いていただけないことは、破産者にとっては違和感が残るのだ。

・連鎖倒産が起こりそうな買掛先に支払いたい。
・友人からの借り入れを返済したい。

など、人間関係が毀損されそうなことでありながら[偏頗弁済]や[詐害行為]に抵触しそうな局面も全く認めていただけないことも多い。

このようなことは、時間が申立て直前である場合や、金額が多くて[偏頗弁済]や[詐害行為]が避けられない場合が認められないのはわかるが、[偏頗弁済]や[詐害行為]を回避する手段手法もないわけではないのだが、これもなかなか対応してはいただけない。

それによって抑えられた出費(すべてではない)が破産管財人の報酬に上乗せされるのは、やはり違和感がある。
せめてその一部だけでも認めていただけないものか、とそのような運用を見せる破産管財人に遭遇するにつけ、いつも思う。

申立て代理人の弁護士によっては、破産管財人に働きかけて実現していただけるように動いてくれることもある(わたしが関与している場合は必ずそうする)が、なかなか難しい問題だ。

弁護士の経済的なプリンシプルは二種類あると思われる。

・依頼人の利益のために働く
という弁護士と、
・いただける費用の範囲で働く
という弁護人に。

誰がその費用を出すのか、という面には興味がないのだろう。
弁護士は、浮世離れした価値観を持っている人が多いということなのだろうか。

倒産に際して、わたしは依頼人に必ず申し上げることのひとつに
「倒産で最も大事なことは、その後の再起再生です」
というものがある。

申立て代理人にしても、破産管財人にしても、倒産(法人の破産、代表者個人の自己破産)は“お仕事”ではあろうが、そこには倒産する当事者の人生がかかっているのだから、再起再生できるような運用を望みたいのだ。

そのためには、“経済的”にも、“心理的”にも、望ましい状態にしてあげていただきたいのだ。
そういう弁護士は、悲しいほど少ないのが現実なのである。

でも、わたしの周りには、そうした気概を持った弁護士はいらっしゃる。
そのような弁護士に遭遇したい方は、ぜひ相談に訪れていただきたい。
ご安心ください。

弁護士(申立て代理人)の紹介もご参照ください。

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