夫が連帯保証人。自宅はどうなるのか
内藤明亜事務所の才藤です。
「主人が保証人になっているのは、知っています」
そのあとに、多くの方がこう続けます。「でも、それ以上は聞けていません」と。
聞けないまま、夜だけが長くなる。相談の現場で、いちばんよく見る光景です。
連帯保証をしていても、自宅を失うかどうかは自動的には決まりません。3つの条件で分かれます。
この記事では、その3つの条件を整理します。
あわせて、自宅に住み続けられる可能性のある制度をご紹介します。
そして、数字を知らないあなたが今日確認できることをお伝えします。
目次
1.「聞いたら、壊れてしまう気がして」
ある相談者の奥さまは、そうおっしゃいました。
ご主人は従業員6名の会社を営んでいます。夜中に台所で電卓を叩く音がする。それが半年続いた。
けれど、聞けなかった。聞いた瞬間に、この人が折れてしまう気がしたからです。
この「聞けない期間」に、選べる手はどんどん減っていきます。会社の資金が尽きてからでは、守れるはずのものまで守れなくなります。
あなたが悪いわけではありません。ただ、知らないままでいることには、静かに代償がついてきます。
2026年上半期の企業倒産は5,346件、前年同期比7.1%増でした。
そのうち従業員10人未満の会社が90.6%を占めています。
出典:東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産」2026年7月8日発表
数字の向こう側には、同じように眠れない夜を過ごした家族が、それだけの数いるということです。
2.連帯保証とは何か。ふつうの保証と何が違うのか
連帯保証とは、借りた本人と同じ立場で返済の責任を負う契約のことです。
ふつうの保証(単純保証)なら、「まず本人に請求してください」と言う権利があります。これを催告の抗弁権といいます。
連帯保証には、それがありません。銀行は、会社に請求せずに、いきなり保証人へ請求できます。
ここが決定的な違いです。「会社が払えなくなったら」ではなく、「会社が払わなければ」その瞬間に請求が届きます。
| 項目 | ふつうの保証 | 連帯保証 |
|---|---|---|
| 先に本人へ請求せよと言えるか | 言える | 言えない |
| 本人の財産を先に差し押さえよと言えるか | 言える | 言えない |
| 保証人が複数いるとき | 頭割りで負担 | それぞれが全額を負担 |
※民法上の保証の基本的な区分を、相談現場でよく聞かれる観点から整理したものです。
ただし、流れは変わってきています。
民間金融機関の新規融資のうち、経営者保証なしの融資は2025年度で55.7%でした。件数にして約122万件です。
2022年度は33.9%でしたから、3年で20ポイント以上動いたことになります。
出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」2026年6月26日発表
3年で、保証なしの融資が半数を超えました。ご主人の借入のすべてに保証がついているとはかぎりません。
| 年度 | 経営者保証に依存しない新規融資の割合 |
|---|---|
| 2022年度 | 33.9% |
| 2023年度 | 47.6% |
| 2024年度 | 52.9% |
| 2025年度 | 55.7%(約122万件) |
出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」2026年6月26日発表
3.自宅を失うかどうかは、3つの条件で決まる
「会社が倒れたら家を出ないといけないのですか」
いちばん多い質問です。答えは、次の3つによって変わります。
- 自宅に抵当権がついているか(会社の借入の担保に、自宅が差し出されているか)
- 自宅の名義が誰か(ご主人の単独名義か、あなたとの共有か、あなたの単独名義か)
- 住宅ローンが残っているか、売った場合にいくら残るか
| 状況 | 自宅の扱いで論点になること |
|---|---|
| 会社の借入の担保に入っている(抵当権あり) | 担保権者の回収対象になる。任意売却か競売かで手取りが変わる |
| 担保に入っていない/ご主人の単独名義 | 保証債務をどう整理するかによる。後述のガイドラインの検討対象になる |
| 妻との共有名義 | ご主人の持分のみが対象。あなたの持分は原則そのまま |
| 妻の単独名義・妻は保証人ではない | 原則として、ご主人の債務の対象外 |
※個別の事情により結論は変わります。実際の判断は弁護士の領域です。
つまり、「妻だから自動的に責任を負う」ということはありません。あなたが保証契約書に署名していなければ、あなた自身の返済義務は原則として発生しません。
逆に、書類に署名した記憶があるなら、そこは早めに確認したほうがよい部分です。
もうひとつ、見落とされがちな点があります。都市部では地価が上がり、売れば残高を上回るケースが出てきました。「売っても借金が残る」という前提が、事実と違っていることがあるのです。
「まだ相談する段階じゃない」と思っていませんか
相談に来られる方の多くが、こうおっしゃいます。「もっと早く来ればよかった」と。
自宅については、動ける時期が限られます。競売の手続きが進んでしまうと、選べる方法そのものが減っていきます。次に述べるガイドラインも、早い段階のほうが検討の幅が広くなります。
相談したからといって、倒産することにはなりません。いま何が選べるのかを知るだけでも、判断は変わります。
4.「経営者保証に関するガイドライン」という道もある
経営者保証に関するガイドラインとは、保証人が自己破産をせずに保証債務を整理するためのルールのことです。
法律ではなく、金融界の自主的な取り決めという位置づけです。
全国銀行協会と日本商工会議所が事務局となり、2013年12月に策定されました。多くの金融機関が尊重しています。
このガイドラインで注目すべきは、手元に残せる財産の考え方です。
- 破産手続における自由財産に相当する99万円は、原則として手元に残ります
- 早期に決断した場合、年齢等に応じておおむね100万円〜360万円の生計費を加えて残す検討がなされます
- 「華美でない自宅」に住み続けられるよう、資産を処分しない扱いが検討される場合があります
- 整理した事実は、信用情報登録機関に報告・登録されない扱いとされています
出典:金融庁「保証人の自己破産回避に向けた事例集」2024年1月/全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」2013年12月策定
この「早期に決断した場合」という条件が、すべての分かれ目です。
資金が尽きて止まった会社からは、回収できる財産がほとんど残りません。金融機関にとって回収見込みが増える段階でなければ、残す話は成り立ちにくいのです。
ただし、これは要件を満たした場合に検討されるという意味です。すべての方が使える制度ではありません。
だからこそ、まだ会社が動いているうちに知っておく価値があるのではないでしょうか。
5.数字を知らないあなたが、今日確認できる4つのこと
決算書を見せてもらう必要はありません。以下は、通帳や郵便物からわかる範囲のことです。
- 自宅の登記事項証明書を取る。法務局または登記情報提供サービスで取得できます。誰の名義か、抵当権がついているかが1枚でわかります
- 金融機関からの郵便物の差出人を控える。督促状かどうかは、開けなくても封筒の様子でおおよそ見当がつきます
- あなた自身が署名した書類がないか思い出す。保証契約書、実印を押した記憶、印鑑証明を渡したことがあるか
- ご主人の顔色と、家計への入金の変化を書き留める。役員報酬が止まっている場合、会社はすでに資金を優先させています
この4つがわかれば、相談の場でお話しできることが大きく変わります。
そして、これはご主人に黙って進めても構わないことばかりです。あなたが動いたことで、ご主人が救われることが実際にあります。
よくある質問
Q1. 妻のわたしにも、夫の借金を返す義務がありますか。
あなたが保証契約書に署名・押印していなければ、原則としてありません。夫婦であることだけを理由に返済義務が生じることはないとされています。ただし、日常の家事に関する債務は例外です。まずは、署名した書類があるかどうかを確認してください。
Q2. 自宅が夫との共有名義です。どうなりますか。
対象になるのはご主人の持分です。あなたの持分は原則としてそのまま残ります。ただし、共有の不動産は買い手がつきにくいという事情があります。実務上は持分の買い取りや任意売却など、複数の選択肢を比べて決めます。
Q3. 相談したら、そのまま倒産の話に進んでしまいませんか。
相談したからといって、倒産することにはなりません。何が選べるのかを整理するのが最初の作業です。そのうえで、続ける道が見えることも実際にあります。
Q4. 本人が動ける状態ではありません。家族が相談してもよいですか。
はい。ご本人が動けないときは、ご家族からのご相談も受けています。数字がわからないままで構いません。わかる範囲のことからお聞きします。
まとめ
- 連帯保証は、会社より先に保証人へ請求が届く契約。ふつうの保証とは別物です
- 自宅の行方は、抵当権の有無・名義・住宅ローンの残高の3つで決まります
- 妻であることだけを理由に、返済義務を負うことは原則としてありません
- 経営者保証に関するガイドラインでは、99万円に加えて生計費を残す検討がなされます
- 華美でない自宅に、住み続けられる場合があります
- いずれも、会社が動いているうちのほうが選べる幅が広くなります
動画でも解説しています
YouTube「倒産レスキュー365」では、倒産の手続きや資金繰りについて、現場の視点から解説しています。文字を読む気力がない日は、こちらからどうぞ。
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出典
・金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」2026年6月26日発表
・金融庁「保証人の自己破産回避に向けた事例集」2024年1月
・全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」2013年12月策定
・東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産」2026年7月8日発表
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