倒産は本当に減ったのか

倒産は本当に減ったのか。

2016年の参議院議員選挙を前に総理大臣は「倒産は三割も減ったのだ」と言った。

商工リサーチの発表によると、最新の2015年の倒産数は年間[8,812件]で十年前の2005年の[12,998件]に較べると68%になっている。
この数字だけ見れば、確かに倒産は三割減っている。

果たして本当に倒産はこのように三割も減ったのだろうか。
商工リサーチの発表数は、倒産数のすべてをちゃんとカウントしているのだろうか。

倒産の定義は、「債務超過で、未払先(未返済先)を残して事業を停止すること」だ。

例えば小規模なラーメン屋さんが(ラーメン屋さん、例に出してごめんなさい)、債務超過状態で金融機関からの借入や買掛先の未払を残して、事業を停止して市場から消えていった場合に、その数は商工リサーチの発表する数字に反映されているのだろうか。

商工リサーチや帝国データバンクの倒産数は、データソースが明らかにされている。

商工リサーチの場合は「弊社は、全国・負債総額1千万円以上の倒産統計を「倒産月報」として月次発行しております」と明記されている。

帝国データバンクは、「この倒産集計は、倒産4法(会社更生法、民事再生法、破産法、特別清算)による法的整理を申請した負債額1,000万円以上の法人、および個人経営を対象としています。 任意整理(銀行取引停止、内整理など)は集計対象に含みません」となっている。

これらのデータは、地方裁判所に申し立てられた倒産の法的処理である[法人の破産]の数のうち(帝国データバンクの場合は[会社更生法][民事再生法][特別清算]が加えられている)、負債総額が1,000万円を超えたものに限定された数字なのだ。

小規模なラーメン屋さんが1,000万円もの負債総額を抱えているとはとうてい思えない。

ましてや、 [法人の破産](と代表者[個人の破産])には裁判所に収める[予納金]が120万円もかかってしまう(この予納金は負債総額が5,000万円未満の最低ランクだ)。

それ以外にも申立て代理人の弁護士費用もかかるので、小規模なラーメン屋さんの倒産が地裁に申し立てる[法人の破産]処理をするとは考えにくい。

よって、商工リサーチや帝国データバンクのデータに入っているわけはない。
そもそも、倒産したからといってどこかに報告(届け出)する義務はないのだから、小規模であれば、わざわざ費用をかけて処理することは少ないのだ。

つまり商工リサーチや帝国データバンクなどは、小規模な倒産をこまめに捉えることはせずに、地方裁判所が発表する数字だけで倒産の実数としているのだ。

総理大臣が頼りにしている数字もまさにこの数字なのだ。

では、倒産の実数はどこかで補足されているのだろうか。

中小企業庁が発行している『中小企業白書』には[廃業企業数]というデータが発表されている。

この中小企業白書のデータは、総務省の[企業統計調査]に基づいていて、厚生労働省「雇用保険事業年報」をデータソースに、「この統計における雇用保険に係る労働保険の消滅を廃業とみなす」とあるので正確だと思われる(年次のデータではなく、三~四年の平均値になっている)。

では、果たしてこれらの倒産数は実態に即した数なのだろうか。

厳密には[廃業]には[倒産]以外にも、債務超過でなない(債権者を出さない)[清算]も含まれるのだが、このデータからはこの倒産と清算の比率は明らかになっていないので、倒産の実数は明らかにはならない。

しかし、一般的に清算数が倒産数を上回っているとは、到底思えない。企業法務や倒産に詳しい弁護士などに聞いてもその比率は1:9程度で倒産がはるかに上回っているだろうと推察されている。

仮に、廃業数のうち倒産が70%と仮定して商工リサーチ発表のデータと比べてみる(比較できる最新のデータは2012年になってしまうので、そこで較べてみる)。

2012年の商工リサーチの倒産数[12,124件]に対して廃業数は[182,123件(260,117件の70%)]と実数は十五倍になり、2002年の商工リサーチの倒産数[19,087件]に対して廃業数は[202,811(289,731件の70%)]と実数は十倍以上となり、商工リサーチのデータと較べると著しく多くなっている。

これでは、商工リサーチの発表する倒産数は実態を表しているとは到底言えないだろう。

倒産の実数は、商工リサーチや帝国データバンクなどが発表している数字よりの十倍以上多いのだ。
総理大臣が頼りにしている数字は、実数の十分の一ほどなのだ。

またこの十年間の廃業数の推移も三割減ではなく、一割減程度にしかにしかなっていない。
三割と一割では三倍も違う。

総理大臣は「倒産は一割しか減っていない」と言い直さなければならない。

この、倒産数の減少も、ゴー・フォー・ブレイクとばかりに倒れるまで突っ走る事業経営者が減り、傷が大きくなる前に事業を何らかの形で終わられる事業者が増えたのではないか、とも思われる。

さらにさらに、この中小企業庁のデータの裏には、[廃業]と[起業]の比率問題が潜んでいることも忘れてはならない。

最新データの2012年の[開業率は1.4%]であり、[廃業率は6.1%]になっている。

廃業と廃業の差し引きでは、毎年会社が4.7%ずつ減っていく。
これでは、20年も経てば日本に会社はなくなってしまう。

※ このエントリーは『JIJICO(ジジコ)』から原稿依頼を受けて書いたものの転載です。
 

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