実録:経営危機コンサルタントのある一日〜2か月後に経営破綻する会社との倒産相談
経営危機コンサルタント・内藤明亜のブログです。
ある地方都市の同族企業が2か月後に経営破綻することになった案件について、どのような相談内容だったのかを、その企業を特定できない形でお伝えします。
(特定されないために、複数企業の実例を交えていますのでご了承ください)
「倒産相談はこのように行われる」という事例としてぜひお読みください。
倒産せざるを得ない状況を認め受け入れることは、経営者にとって苦渋の決断を伴いますが、この事例のようにその日は突然やってくることが多いのです。
以前、経営危機相談の対応をした経営者からの一本の電話
ある日の夕方、わたしの携帯電話が鳴りました。
依頼人:「以前に相談にうかがった者ですが、どうにも資金不足が避けられない状況になってしまったので、助けてください」
内藤:「そうなのですね。その資金不足は、いつごろ、いくらぐらい、起こるのですか?」
(以下、依頼人を「A」さん、わたしは「内」と記す)
A:「2か月後に、5,000万円ほどです」
内:「その債務の内容は?」
A:「買掛金と手形決済がほとんどです」
内:「給与などは払えるのですか?」
A:「はい、それは最優先で用意しています」
内:「2か月後の資金不足を何らかの形でクリアできれば、その後の資金不足は解消されるのですか?」
A:「いいえ。その後も資金不足は続きます」
内:「わかりました。お急ぎですね」
A:「そうです。こちらから経営陣三人が東京に行って留守にするといろいろ不審に思われそうなので、こちらに来ていただけますか」
わたしは了解して電話を切りました。
その後、ネットで航空券を予約し、現地着時間をAさんにメールしました。
翌日午後、ある地方都市の会社に向かう
その翌日、午前10時過ぎに事務所を出て、羽田空港からある地方都市へ向かい、Aさんの会社に着いたのは午後2時をまわっていました。
会議室にて直ちに打合せに入りました。
緊迫した空気の中、以下のようなやり取りが続きます。
倒産相談はこのように行われる
事業内容と経緯を再度ヒアリングする
・創業15年。資本金3,000万円。年商約5億円。従業員15人程度。
・会社所有の自社ビルがあり、経営陣は同族で3人。
・ここ数年、売上高は毎年減少、利益率も毎年低下、利益は出せていない。
・粉飾決算でなんとかつないでいる。
2か月後前後の資金繰り状況をヒアリングする
・金融機関は融資を断ってきた。
・個人資産の投入も限界に来ている。
・経営陣は疲労困憊、事業継続の情熱を失っている。
事業継続断念の確認をする
・経営陣全員一致で納得された。
2か月後の月末に[Xデー]が到来することを確定
・2か月後の20日入金分で優先性の高い支払いをし、その残分を破綻処理費用とする。
・事業停止はその月の月末とする。
会社の破綻(法人の破産)はどのようなものかを説明する
・経営者、株主、役員、社員(およびその家族)への影響。
・得意先(売掛先)への影響。売掛金、仕掛りの仕事への影響。
・買掛先(買掛先、手形の振出先、外注先)への影響。
・その他の債務(税金、社会保険、水道光熱費などの一般管理費)への影響。
・これら一連の倒産・破産処理は、”犯罪ではない”ことの説明、単なる”会社という経済的なユニットの破綻に過ぎない”ことの説明。
連帯保証している経営陣の破産は避けられそうもないことを説明する
・破産しないとどうなるか。
・倒産処理後に再起したいのならば破産することを勧める。
個人の破産がどのようなものかを説明する
・個人財産への影響。
・個人の債務への影響。
・社会活動への影響。
会社の破綻処理後の事業継続の可能性を説明する
・個人事業での事業継続の可能性。
・別会社を設立して事業継続する可能性。
・協力してくれる会社での事業継続の可能性。
会社の破綻処理後の経営陣が個人としてどのようになるかを説明する
・単なる破産者と同じであることを説明。
・あらゆる可能性があることを説明。
(事業を起こすこと、経営者になれること、どこかの会社に就業することなど)
この破綻処理のおおよその手続きと費用を説明する
・法人の破産の申立てをすること。
・破産の申立てに必要な書類などを説明。
・申立て代理人に弁護士が必要であることの説明。
・申立てから終結(個人の場合は免責)までの手順の説明。
・裁判所への予納金の説明(「少額管財」を想定)。
・弁護士費用の説明。
・わたしのコンサルタント費用やその他の諸雑費の説明。
終結までの手続きと日程を説明する
・事業停止
・申立て代理人による弁護士介入
・申立て代理人の弁護士から債権者へ連絡
・申立て前処理
・地裁への破産申し立て(少額管財を想定)
・免責の申立て
・破産管財人面接
・破産管財人とのやり取り
・債権者集会
・免責の決定(終結)
個人の破産に関する留意事項を説明する
・連帯保証分についての説明
・個人の財産確保のアドバイス
・合法的に保持できる自由財産(破産時に持てる現預金
:現金99万円以内、預金など20万円以内)の説明
・個人の破産には免責があることの説明
申立て代理人になる東京の弁護士の確保を依頼される
・地方都市の弁護士は東京に較べると数が少なく、破産手続きに熟達している弁護士はほとんどいないのが実情だ。
・破産手続きに不慣れな地方都市の弁護士に委任すると費用も時間もかかり、さらに依頼人の利益も守ってくれないことが多い。
・そこで事業停止前までに東京の弁護士を確保してほしい旨を依頼される。
・Aさんとわたしと弁護士との三者打合せができるよう約束する。
2か月後の[Xデー]までに何をするか(何ができるか)を説明する
・人件費(労働債権)は最優先で対応。解雇手当。退職金など。
・連鎖倒産はしそうな債権者は優先的に対応する。
・金融債務は必ずしも優先しない(この後の借入れ返済はしない)。
・経営陣の再起のための費用は確保する。
・法人の破綻処理はちゃんとする(法人の破産処理=少額管財を想定)。
・連帯保証のある経営陣も個人の破産処理はすること(高齢者はその限りにあらず)。
次回の打合せまでにする作業を説明する
・Xデー(2か月後)段階の会社の「財産の一覧」を作ること。
・Xデー(2か月後)段階の会社の「債務の一覧」を作ること。
・債権者の住所、社名、連絡できるFAX、電話、担当者名、債務金額、連帯保証などの一覧を作ること。
・連帯保証をしている経営陣個人の財産と債務の一覧を作ること。
4時間の会議の後、日帰りで東京に戻る
このような説明とやり取りが約4時間、その間コーヒー2杯、全員が疲労困憊し、会議が終わりました。
その後、Aさんに空港まで送っていただき、羽田空港に降り立ったのは午後9時に近い時間でした。
リムジンバスで事務所に戻る途中、バス車中で破産申立て代理人をお願いする予定の弁護士にメールし、次の打合せに備えます。
事務所に帰り着いたのは午後10時をまわっていました。
この間おおよそ12時間、飛行機、車(バス)、会議室以外の場所には立ち寄りませんでした。
東京から500km以上離れた地方都市に出向いたものの、その土地のものは一切口にしませんでしたし、その土地の店にも入りませんでした。
このような一日(前日に電話をいただいき、その翌日に日帰り出張する)は大変めずらしいことですが、今までもありましたし、おそらくこれからもあり得ることだと思っています。
こうしたご相談の後は、依頼人と弁護士との面談を設定し、メールや電話などで連絡を取りながら、破綻処理を淡々と進めていくことになります。
これで一つの会社が終結に向かってうまくソフトランディングでき、その後、経営者が再起の道をたどることができれば、わたしは”Good Job”だったと思うことができるのです。
(初出:2012年12月18日、最終修正:2021年2月4日)
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