「放置逃亡」が非推奨である理由

事業経営が持続できなくなった場合、実は、倒産処理(法人の破産)をしなければならないという法的根拠はありません。しかしながら、倒産処理を行わず、放置逃亡といった手段を取るのは当事務所では決してお勧めしません。その理由を本記事にて説明します。

本記事は才藤が執筆しております。

「放置逃亡」が非推奨である理由

債権者からの取り立てを無視することは難しいから

倒産の定義は倒産の定義 倒産とはどういうことか 【改定】で詳しく述べていますが、わかりやすく言えば、債務超過でなおかつ資金不足で、債権者に支払い(返済)ができなくなり、事業を停止することです。

事業経営が継続できなくなったということは、債務が支払えなくなっている状態ですが、そうなると債権者はそれらの債権の取立てを行います。むろん、債務の主体が会社であれば、連帯保証をしていない限りは、代表者や会社の役員に債務の返済義務は発生しません。とはいうものの、経営者にとって、債権者からの取立てを無視することは大変に難しいことです。

なぜならば、

  • 従業員の雇用責任は経営者にあり、給与などの人件費はその雇用責任から発生している
  • 仕入れなどの買掛金にも、経営者の発注責任がある
  • 賃借料なども、契約書に従った連帯保証人に支払い義務が発生しているはず
  • 金融機関からの借入金には、ほぼ間違いなく経営者個人が連帯保証している

からです。

では、債権者はどのように取り立てるかというと、

  • 経営者などが連帯保証していないものは、会社の財産を換金して支払え、と迫る
  • 連帯保証しているものは、連帯保証人に請求する

ことになります。

さらに具体的には、下記のような影響が考えられます。

  • 会社の債務の時効は五年だが、最大十年の時効のものもあり、時効までの五年間(十年間)取り立てにさらされる。
  • 連帯保証分は連帯保証人に請求がいくが、連帯保証していない分は、経営者が取り立てにさらされる。
  • 連帯保証人の財産で返済しきれない場合、その残債は経営者個人に請求される。
  • 裁判を起こされ、経営者個人に支払い命令が出る場合もある。
  • 債権者による債権者破産(第三者破産)の申立てをされる場合もあり、当事者(倒産者)の破産と同様の処理がなされる。
  • 不動産や車等の財産が差し押さえられる恐れがある。

債務の性質ごとに、下記のような取り立てや対応が想定されます。

  • 金融機関

金融機関は(根)抵当権があれば実行します(不動産などは任意売却や競売の対象となります)。残債があれば、代表者個人に請求が行われ、破産をしない限り、定期的に内容証明が来るなど請求し続けられる事態となる可能性があります。連帯保証人があれば、その者に対しても請求が行われます。連帯保証人に財産があれば差押えなどの手段を実行されます。

  • 一般債権

代表者が連帯保証していなければ、代表者個人に支払い義務はありませんが、買掛金の債権者は代表者に支払いを求めていくことが多いものです。会社として(代表者が)支払いの約束をしてるにもかかわらず、支払いできないのは許せない、という論理です。毎日のように、自宅に請求に来たり電話をしてくるような債権者もいて、そのプレッシャーに耐えられずに多くの方が、個別にいくらかを支払う約束をしてしまうことがあります。それらの総額を考えると、ちゃんと破産処理しておいた方が支出額が少なかったというケースも少なくありません。このような債権者が多いと、経営者の再起への大いなる障害になります。就業した場合に給与が差し押さえられることはありませんが、会社に請求がいくようなこともあり得えます。

  • 税金・社会保険

会社に財産(預貯金や売掛金)があれば、国税徴収法の第47条等の規定に基づき、差押えが執行されます。代表者個人が請求されることはありませんが、事情を聴かれることはあります。

  • 労働債権

従業員が労働基準監督署に行って手続きすれば、給与の立て替え払いなどに応じてくれます。しかし経営者が誠意のある対応ができないと、経営者に対して裁判を起こされることがあります。また言うまでもありませんが、社員や役員との人間関係が毀損されることは避けられません。

  • ローン・リース

おおよそ経営者が連帯保証してるので、ローンやリース物件は回収され、残債があれば経営者個人に請求が行われます。破産しなければずっと請求がきます(定期的に内容証明が来ることになります)。代表者以外の連帯保証人があれば、その者に請求が行われ、財産があれば差押えなどの手段が実行されます。

  • 水道光熱費等

会社が事業停止すれば、請求されることはありません。ただし、下水道料金については、公租公課であり、滞納に対して差し押さえが行われる可能性があります。

[参考]留萌市広報2015年8月号

これらのような取り立てが発生するため、逃亡し、既存の生活や人間関係をすべて断ち切り、逃げ続ける覚悟がなければ、債権者からの取り立てを無視することは出来ません。

事業の再起、生活の再建が困難になるから

もともと住んでいた居所を離れ、逃亡してしまうとどのようなリスクが待ち受けているのでしょうか。

郵便物は、郵便局に転居届を出せば新しい居所で受け取れるようになりますが、最大のリスクは住民票です。

なぜなら、容易には住民票を移せないからです。住民票を移してしまうと、金融機関などはその移動をチェックして転居先まで追いかけてきますし、一般債権者も追いかけてくる可能性が高いです。

住民票を移すことのできないデメリットは枚挙にいとまがありませんが、下記のようなものがあります。

  • 就職ができなくなる(就職先への住民票が提出できない)
  • 入学進学や転校ができなくなる(お子さんがいる場合は影響大)
  • 国民健康保険に入れなくなる
  • 都道府県や市区町村独自の行政サービスが受けられなくなる
  • 免許証の更新や住所変更ができなくなる
  • 地方税が払えなくなる

今まで、放置逃亡を続けてきた方がうっかり住民票を移してしまうと、突然金融機関が訪ねてきたり、金融機関から内容証明郵便が届いたり、一般債権者から請求書が届いたりしてびっくりした、という話は依頼人の皆さんからよく伺う話です。

住民票

住民票の問題は放置逃亡のリスクの一例に過ぎず、実際には経営者の人生全体に深刻な影響を及ぼします。

放置逃亡は、これまで築いてきたほぼすべての人間関係を捨てることを意味します。それは新たな人間関係の構築や仕事上のつながりにも支障をきたすでしょう。過去の債権者に偶然出くわす可能性や、新天地でも過去について率直に語れない状況、さらなる逃亡を余儀なくされるかもしれないという不安。このような状況下で感じる絶え間ないストレスは、心身の健康を著しく損ない、事業の再建や新規立ち上げはおろか、日常生活を送ることさえ困難にしかねません。こうした理由から、放置逃亡は決して推奨できる選択肢ではないのです。

最低限の倒産処理の費用とは

経営者が放置逃亡を思い至る最大の原因は倒産処理の費用の問題だと考えます。

思いつめた経営者は、倒産処理に何百万円もかかると思い込み、放置逃亡するしかない、という結論になるのではないでしょうか。では、倒産処理をするにあたって、最低いくら費用を用意したらいいのでしょうか。(下記の数字は、わたしの知る限り、初期費用としてかかる最小限必要な費用です)

  • 予納金(少額管財)  23万円 → 裁判所に払う費用の概算、多少の変動あり
  • 弁護士費用(着手金)   20万円
  • 当事務所費用(着手金)  10万円 合計 約53万円

弁護士費用は案件によってかなり幅がありますが、長期の延べ払いにしていただける弁護士もいるので、そういう方に委任することになります。(あるケースでは、弁護士に毎月二万円の延べ払いに応じていただいた実績があります)。ただし、分割払いはすべての方が受けられるわけではありません。特に弁護士は相手を見て決めるようです。

もしギリギリまで追い詰められたとしても、ぜひこの50万円程度の費用は残してください。

少額管財という手法を用いて行う法人の破産については、その要件やメリットについて、下記の記事で詳しく紹介しておりますので是非お読みください。

本記事は才藤が執筆しております。 法人および経営者個人の破産処理において、当事務所がお勧めするのは、少額管財と呼ばれる倒産処理の方法です。 これは従来の方法に比べて、予納金が安くて済む、時間がかからないというメリットがあ […]

この記事のまとめ

放置逃亡を選択した場合、住民票を移動せず、これまでの人間関係や生活をすべて捨て去らざるを得ません。それでもなお、債権者からの取り立てを完全に回避できる保証はありません。さらに、債務の時効が成立するまで事業の再起や生活の再建も困難で、様々な制約に縛られた過酷な生活を強いられることになります。

むしろ、最低限の倒産処理初期費用(約50万円)を確保し、適切な倒産処理を行うことが賢明です。

当事務所が最も重視しているのは、以下の2点です:

  • 相談者の利益を最大化し、不利益を回避すること
  • 倒産後も経営者が再起・再建の道を見出せるよう支援すること

これらの目標を達成するためには、入念な打ち合わせ、綿密な計画立案、そして確実な実行が不可欠です。

倒産処理の相談は、一日でも早い方が望ましいです。是非すぐに当事務所にご相談にいらしてください。

弁護士に相談に行って、親身に相談に乗っていただけない方の相談も多いものです。

当事務所の内藤明亜も才藤卓も、倒産と破産の経験者です。

 

執筆: 才藤

(初出:2024年9月26日)

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