【はれのひ】問題を考える ③ 【はれのひ】はなぜ倒産したのか

経営危機コンサルタントのわたしに、【はれのひ】を擁護する意図は全くない。

わたしの企図はこの素材で、事業経営の問題点、危機管理、破綻処理(倒産処理)、 倒産犯罪、などについて理解を深めていただきたいのだ。

先に、【はれのひ】の倒産の背景解明のために、

・どうすれば【はれのひ】は経営危機に陥らないようにできたか
・どの段階で倒産を意識したのか
・どうすれば【はれのひ】の倒産は回避できたのか
・経営者としてどうあればよかったのか
・被害を少なくするのはどうすればよかったか
・自らのダメージを少なくするにはどうすればよかったか、

を探っていきたいと書いた。

本稿では上のテーマを報道記事や社長のインタビューから解明してみたい。
ここに書かれたことは、ほとんどがわたしの憶測であることをお断りしておく。

【はれのひ】問題を考える ① 【はれのひ】は倒産したのか


【はれのひ】問題を考える ② 【はれのひ】が破産申立てをした

 

【はれのひ】の経営状態はどうだったのか

 
一般的な事業経営“不安要因”は以下の三つに整理できる。

・シクミ
事業モデルが“利益”を生む構造になっているか。
売上総利益(粗利)だけでなく、営業利益も出せる構造かどうか。

・ヒト
事業を展開するに必要充分な人材が確保できているか。
当期だけでなく来期も人材は確保されているか。

・カネ
財務状態が債務超過になっていないか。なっていても回復可能か。
事業を展開するに充分な資金は確保できているか。

【はれのひ】はどうだったのか

・シクミ

貸衣装業として特段アドバンティジがあるとも見えない。
この業態は所詮地域マーケティングしかない。
一定のエリアで顧客の信頼を勝ち得なければ商売にはならない。

さらに、売上げの季節較差が大きく、そのリスクをカバーする施策は見えない。
多店舗展開による売上げ拡大を目指していたようだが、拙速にしか見えない。
フランチャイズという方法もあっただろうに、その動きも見えない。

事業のスタート時はよかったのだろう(だからこそ金融債務が12社で約3億8000万円にもなった)。
無限に拡大再生産する多店舗施策の方針を持つことなく、分相応のサイズでやっていればこれほどの倒産にはならなかったと思われる。

市場を見ると[振袖]需要は少子化の傾向からその将来性は大きくは期待できない。
にもかかわらず多店舗による無限拡大を推し進めたのは、元コンサルタントから実業に転じた経営者としては戦略がないとしか言いようがない。

・ヒト

結果からみるとこの経営者は“仕事師”。
“マネージメント”を担務するパートナーがいない。

これだけ組織を広げるならば有能な“中間管理職”が必要だが、これも見えない。
労働債権を残したことから、人材をかなり軽視していたように見える。

この事業は特異なアドバンティジがあるわけではなく、システムで対応していこうとしているように見える。
そうであれば、人材の質と量は必要不可欠なはずだが、それが見えてこない。

一時はいい人材が集まっていたのかもしれないが、破綻時の報道を見る限り、一部の献身的な社員たちは見えるが、必要なところに必要な人材が見えない。

先日の記者会見も、仕事師である経営者は出てきたが、実務をつかさどるマネージャは出てこなかった。あの記者会見は、説明責任を果たすためではなく単なるセレモニーで終わったのはそのためだろう。

・カネ

金融債務が多すぎる。
3億8,000万円。
これは年率2%だと毎月利息だけで63万円になる。
有能な中間管理職をひとり雇えるほどの利息を払っていたことになる。

さらに、優先債権(税金、社会保険、労働債権)が多すぎる。
7,300万円。[税金等の滞納分]が約5,500万円、優先債権である[未払いの賃金]が35名に対して約1,800万円。

これは差押えの恐怖と戦うことになる。
いつ売掛金や銀行口座を抑えられるかの不安の中で経営していたことになる。

いつのころからか、資金不足は金融機関から調達すればよい、と思ったのではないか。
でも、それができなければ資金ショートは避けられない。

【はれのひ】の末期は死に体だ。経営者としては生きた心地がしない状態だったろう。
利益を生まない事業。
社員とは一体感がなく、資金もどんどん急迫していく。

 

【はれのひ】の倒産直前の財務状態

 
では、【はれのひ】の倒産直前は、どのような経営状態だったのか。

一般的な倒産の要因は、

・債務超過
・資金不足
・将来不安

上の三つが“間接的要因”で、最終的に倒産のトリガーとなるのは上の三つのうち[資金不足]になるものだ。

その[資金不足]を測るためには[資金繰り表]が欠かせない。
余力があるときは[月次]でもよいが、不安定になってきたら[週]の単位で、もっと切迫してくると[日繰り]で入出金の状態を把握するものだ。

日繰りでいえば、毎日の入出金状況を見るもので、マイナスになるとそれは[資金ショート]と呼ばれる状態で、対策としては、

・支払先に猶予してもらう(待ってもらう)

・どこかから資金を調達する

をしなければならなくなる。

まれに(とくに小規模の場合に)この資金繰り表を持っていない会社もあるが、経営者はこれがないと不安が解消できないものだ。
税理士などの会計士がついていれば当然指導があるだろう。

【はれのひ】の規模であれば、当然資金繰り表はあったと思われる。
上のような経営状態であれば、当然資金ショートの瞬間はあっただろう。
何回もあったと思われる。
それをどうリカバリーしたのか。

ひとつは支払の猶予で、これは人件費や買掛金がかさんでいることから、伸ばし伸ばしになっていたのが手に取るように判る。

その一方で、資金調達は主に金融機関に依存していたようだ。それは金融債務の大きさから簡単に類推できる。

資金繰り表によって、この先に起こる資金ショートの瞬間は予測できる。
それに対して支払いの猶予や資金の調達でしのいだとしても、それは刹那的な一時しのぎでしかならないので、また資金ショートが訪れることは明らかだ。

このように一時しのぎ策が有効なのは、その先に大きな入金が保証されているときだけだ。

【はれのひ】には、その先の大きな入金の可能性はなかったと思われる。
事業モデルから事業上の入金はありえない。
あったとしたら金融機関からの大型の融資だろうが、それにしても経営状態からは、望むべくもないものだったと思われる。

こうした、【倒産状態】回復不能状態、すなわち死に体(最終段階)に至る前の、【経営危機】不安定経営危機状態の段階であれば、手は打てたかもしれないのだ。

当ホームページの『倒産の自己診断』を参照いただければわかっていただけるだろうが、死に体になってからではリカバリーは至難なのだ。

 

【はれのひ】の倒産直前の心理状態

では、【はれのひ】の経営者の倒産直前の心理状態はどうだったのか。
一般的な倒産の要因は、

・債務超過
・資金不足
・将来不安

で、最終的に倒産のトリガーになるのは[資金不足]だということはすでに述べた。

経営実績を測る指標としては、月次の[試算表]があり、(月次あるいは四半期の)[決算書]がある。

その[損益計算書(P/L利益と損失)][貸借対照表(B/Sバランス・シート)]を見れば経営実績は把握できる。

さらに(月次の)[資金繰り表]があれば、毎月の会社のリアルな財務状態が把握できる。

これらの指標を毎月検討していれば、本来会社として事業が継続できるか(継続すべきか)、継続できないで破綻処理をすべきか(継続すべきではない)は、判らないわけではない。
にもかかわらず、成算のない事業継続に突っ走ってしまう経営者がいるのである。

この【はれのひ】の経営者がそうであるかどうかは判らないのだが、経営危機コンサルタントのわたしのところに相談に来られる方にそういうタイプは多いものだ。
なぜそうなってしまうのか。

いくつか原因と思われることはある。

・過去の成功体験の幻想から離れられない。
・当面の危機(ほとんどが資金調達)を超えればその先は何とかなる。
・倒産なんてそもそも考えたくない。
・倒産すると債権者が怖い。
・倒産後に何が起こるのかを考えると不安でしょうがない。
・最後までがんばれば債権者も認めてくれる。
・など、など。

相談者からそのような言葉を何回も聞いた。

この段階で、こうなってしまう経営者は、あとで

・あの時は正確な判断はできなかった。
・平常な心理状態ではなかった。
・頭の中は真っ白だった。
・誰に相談してよいか判らなかった。

のような感慨をもらすことも多い。

このような倒産を[切迫倒産]と呼ぶ。
何の準備もできずに、ある日[資金ショート]が起こり、債権者から突き上げられて事業が継続できなくなる倒産ことだ。


せめて、三か月~半年先であれば(もっと先である方がいいに越したことはない)であれば、準備をしたうえで倒産を迎えるこができるものだ。
それを[予知倒産]と呼ぶ。

切迫倒産、予知倒産についてはこちら

そうすれば、経営者も役員も社員も(それらの家族も)ダメージは少なくて済むことは言うまでもない。
その意思決定ができるのは経営者だけなのだ。

こうした段階で、何が有効だったのか。
それは、たったひとつ
・相談相手
だ。

正確な判断力を失っている経営者にとって、正しく相談に乗ってくれる相談者が何よりも大事なのだが、経営危機にあって相談に乗ってくれるような機能を備えた機関や組織などは存在していないのが現状だ。

結果から見るかぎり、【はれのひ】の経営者にはそうした的確な判断力を持った相談者はいなかったと思われる。

ここに書かれたことは、ほとんどがわたしの憶測であることを、再度お断りしておく。

※ この【はれのひ】の倒産は【てるみくらぶ】の倒産の件と併せて、問い合わせも多いことから断続的に解説的な連載をする予定です。

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