倒産処理の現実=倒産処理には費用がかかる〜放置逃亡せず再起するために【改定】

いよいよ資金が底をつき、倒産するしかない局面の経営者からのご質問が非常に多い【放置逃亡するとどうなるか】について。

このエントリーもぜひ参照してください。
「放置逃亡するとどうなるか」〜そのリスクと再起への障害

結論から言います。
倒産から再起したい方は、決して【放置・逃亡】してはいけません。

そのためにも”会社の終わり”すなわち「倒産」の場面でかかる費用の問題を中心に、すべての経営者に知っておいていただきたい事実をお伝えしたいと思います。

つらくても倒産処理はしたほうがいい

経営者にとって事業継続が無理だと判断し、刀折れ矢尽きて倒産してしまうことは、死んでしまいたいほど悔しいものです。

とはいえ、わずかに残った力を振り絞って倒産処理をしようと、ネットで調べたり弁護士に相談したりすると想像以上に費用がかかることに驚き、さらに絶望的な思いに陥ることになります。
(思い出したくはありませんが、わたしにもその経験があります)

会社を作るのはかんたんだが、終わらせるのはたいへんだ

と言われるゆえんです。

よって、【放置】や【逃亡】を選ぶ人が出てくるのですが、経営者のその最後の選択は、債権者に認めていただけるものでないと、どうしても“経営者の再起”は難しくなってしまうのが現実です。

ですので、思いとどまってきちんと倒産処理をすることが必要になってきます。
きちんとした倒産処理、すなわち[法人の破産]処理をすれば、会社はもちろんなくなってしまいますが、会社の債務も一切なくなってしまいます。
債務を抱えることなく、裸一貫で再起できるのです。

倒産処理の大原則とは何か

さて、倒産処理には大原則があります。

【倒産処理の大原則】

①会社の財産をすべて換金し債務(未払い、借入)に充てること

②会社のなした契約をすべで解除すること

①の処理をする際、「債務」のほうが「財産」より大きくて、債権者を出してしまう(未払いや債権が残ってしまう)のが避けられないと、それが【倒産】です。

倒産処理の結果、配当が100%となることはあり得ません(それは「倒産」ではなく、「清算」です。倒産では配当が0%ということもよくあります)。

この配当を債権者の誰からも苦情が出ないように分配するのは、だれが考えても至難の業です。

さらには、「従業員の解雇」や「事務所・店舗からの撤退」など、【会社のなした契約を解除すること】も必要になってきます。

そこで、その一連の処理を地方裁判所に申し出て(破産を申し立て)、破産管財人によって処理してもらうのが【法的処理】であり、【法人の破産】処理です。

一方、法人の破産と同様の処理を弁護士に自ら依頼して、裁判所が関与することなく【私的処理】することが【任意整理】と呼ばれる手法です。

どちらにしても、かなりのエネルギーと時間が必要です。

倒産処理にはお金がかかる

倒産処理のための費用は、当然のことながら倒産者が負担しなければなりません。
それには下記のようにそれなりの費用がかかるものです。

法的処理の費用① 管財事件は最低120万円

【法人の破産】には、【管財事件 】と呼ばれるものと、【少額管財】と呼ばれるもの二種類があります。

【管財事件】 (いわば法人の破産の”標準的処理方法”) では、先に述べた【会社のなした契約を解除すること】を、地裁に選任された破産管財人が担うことになります。

そして 「債務総額」によって違いのある【予納金】を地裁に納める 必要があります。

ですので【予納金】 とは、地裁に任命される破産管財人の費用と考えてよいでしょう(破産管財人の費用が別途請求されるようなことはありません)。

【管財事件】の予納金の最低額は下記です。

◆管財事件の予納金
最低(債務総額5,000万円以下)でも
【法人分70万円】と【代表者個人分50万円】で【合計120万円】

この予納金は「債務総額」によって定められるのであって、「債務と財産の差額」ではないので注意が必要です。

*詳しくは【法人の破産・管財事件とは・費用】をご参照ください。

法的処理の費用② 少額管財は20万円+

一方、【会社のなした契約の解除】を”より簡易に処理”できる場合は、【少額管財】による法人の破産が実現できます。

【少額管財】の予納金は「法人と代表者個人の破産」がセットで 、下記のようになります。

◆少額管財の予納金
【20万円】(東京地裁の場合)プラス【実費(数万円)】

このように 【管財事件】と 【少額管財】では予納金が圧倒的に異なりますので、小規模零細企業が倒産する場合は【少額管財】を目指すべき、と考えています。

ただし、その実現には破産申立前にいろいろと準備(申立て前処理)が必要ですし、地裁によって 【少額管財】の運用をしていないところもありますので、事前に確認しておく必要があります。

*詳しくは【少額管財を実現するための要件】をご参照ください。

申立代理人の弁護士費用は100万円以上

さらに、一連の処理には申立代理人の弁護士も必要になります(地裁は、法人の破産申立ての場合、弁護士を申立代理人にしなければ受け付けてくれません)。

申立代理人の費用は難易度にもよりますが、 だいたい【150万円以上】 は必要と思ってください。

【少額管財】の場合なら、「申立て前処理」をしっかりやってくれる弁護士の費用は【200万円以上】 かかることが多いようです。

なぜ申立代理人の費用はこのように高額なのでしょうか。

先ほど費用は「難易度による」といいましたが、この「難易度」とは、先に上げた【会社のなした契約の解除】の作業の質や量をいいます。

ある弁護士に聞いた話ですが、作業をするにあたってのメールのやりとりは、破産管財人との間で200通ほど、依頼人との間は100通ほど発生するのだそうです。
賃貸物件の解除などは、申立て代理人の弁護士が解約交渉(原状回復作業)などをする場合もあります。
弁護士の作業量が膨大だからこそ、でしょう。

また【少額管財】では、事務所や店鋪から撤退できてないと適用されないことが多いため、申立代理人の弁護士にその手続きをしてもらうことになり、結果としてそれ相応の費用がかかるのです。

*申立代理人弁護士の費用については【倒産の費用(総額)】をご参照ください。

*しかし、依頼人(経営者)の利益を少しでも守っていただけるような有能な弁護士でなければ、いくら費用をかけても弁護士の商売にされてしまうだけです。
実際にそのような実例を経営者の皆さんからよくお伺いします。ご興味のある方は【役立たずの弁護士が五人も…】をご参照ください。

任意整理(私的整理) の場合は弁護士費用のみ

倒産処理のもう一つのケース任意整理(私的整理)では、地裁に申し立てない(破産管財人も介在しない)ので、【予納金】は必要ないのは当然ですが、多大な【弁護士費用】がかかります。

*詳しくは【任意整理の弁護士費用】をご参照ください。

倒産処理には費用がかかるという現実を受け入れ、1日も早く適切な対処を

経営者が倒産という事態を受け入れ、きちんと”倒産処理というピリオド”を打って再出発するためには、上述のようにかなりの費用がかかるものなのです。

なのに、それまで毎年、何千万円〜何億円もの年商をあげていた経営者が、会社の最後の段階になって百万円単位の倒産処理費用を用意できずに適切な処理をできないまま、再出発も図れないという例をわたしはいくつも目にしてきました。

それは倒産処理には費用がかかる、という現実を知らなかったからに他なりません。

でも、考えてみてください。
倒産処理のためには、下記作業のすべてを行わなければならないのです。

・社員の労働債権を保証し
-給与、(規定があれば)退職金、解雇予告手当、など

・会社の財産を換金し
-売掛金の回収、会社財産の売却、在庫品の換金、など

・債権者に連絡して債権調査を行い
-買掛先、借入債務から光熱水費まで

・可能ならば配当を実行し
-できなければ0%になる

・会社のなした契約をすべて解除し
-賃貸契約やリース、ローンの契約も破棄する

・事務所の撤去を行い
-会社がなくなるので、会社の痕跡(看板、賃貸物件、各種届け出、など)もなくすことになる

・最終的には債権者の同意を取り付ける
-裁判所での債権者集会

もしこれらを倒産の当事者である経営者自身がやることを考えてください

膨大かつ大きな精神的ダメージを行う作業をこなさなければなりません。

そう考えれば、かなりの費用が発生することはご納得いただけると思います。

わたしは常々「あと半年早くお越しになっていれば」と言い続けています。

せめて、倒産まで半年程度の時間があれば

・倒産処理資金の調達も容易だし

・心構えにも余裕が生まれ

・再起の準備もそれなりにできる

ものです。

時間がなくてそれができないがために、【放置逃亡】を選んでしまい、立ち直れないほどのダメージを受けてしまうのです。

【放置逃亡】の最大のリスクは、債権の時効までの5年間(最長10年間)、債権者に追われる生活が続くため、まっとうな市民生活ができなくなってしまうことです。

冒頭にも挙げましたが、併せて【放置逃亡するとどうなるか】もぜひお読みください。

どうか、倒産処理の現実、特に費用面に目を向けてください。
そして、最低でも3ヶ月〜半年程度、資金繰りの余裕を持って当事務所にご相談にお越しください。

その程度時間があれば、ダメージの少ないかつ被害を最小限にとどめた倒産が実現できますし、再起に向けての準備もかなりできます。

一方、時間がない=今月末や翌月末に倒産するような場合であっても、再起しやすい方法を知恵を絞って考えますので、どうか1日でも早くご相談にいらしてください。

(初出:2015年1月16日 、最終修正:2023年2月1日)

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