改竄(かいざん)されていない決算書は見たことがない

全くというわけではないが、一〇〇〇社ほどの経営危機に陥った経営者とお会いしてその会社の決算書を見たが、改竄されていない決算書は2社しかなかった。

この2社も一切を税理士に任せてあるので、自分で改竄を求めたことはないということだが、その税理士が改竄していたかどうかはわからないのであるが。
それにしても2/750社。0.266%。これでは[なかった]と言えるだろう。

これは小規模零細企業にかかわる習慣として、最も悪いものだとわたしは思っている。

なぜか。
決算書に欠損が出ていると、金融機関の対応が変わるのだ。もちろん悪くなる。新たな融資はしてくれなくなる、あるいは融資を引き上げる。
公共事業を請け負っている業種では、請ける資格を失うことにもなり得る。

そうなると事業経営は破綻しかねない事態になる。
そのために決算書を改竄して、わずかでも利益が出ていることにして納税する。
経営″危機″コンサルタントであるわたしたちのところに相談にいらっしゃる方はそのような方が多いのだ。

しかし、ほとんどの決算書には[税理士]のサインがある。

ということは、これらの決算書に署名した税理士はこの改竄を承知していたことになる。これが習慣化しているとしたら、税理士の存在価値が疑われてもいたしかたないだろう。
何人かの税理士にこのことを指摘したら、「そんなことはありえない」と気色ばむか、「顧問先から報酬をもらうからしょうがないんだ」と俯くかの二つの反応であった。

では、改竄した決算書はわかるのか、という疑問があろう。

わかるのである。

わかりやすい一例を挙げると、決算書の項目に[売掛金]というものがある。仕事が完了して請求書が提出されそれが受理されたがいまだ支払いは受けていない、という段階のものを指す。

その売掛金の回収サイト(いわゆる締め日から支払日までの期間)が平均一ヶ月であれば、決算時の売掛金は年商の十二分の一(1/12)になっているはずだ。回収サイトが平均二ヶ月であれば六分の一(1/6)になる。

ところがそれ以上の売掛金があれば、それは改竄している可能性が高いと見做されることになる。
改竄された決算書のほとんどがここでばれてしまう。
少なくともわたしのところにいらっしゃる方のほとんどはそうなっている。

この改竄ポイントは、わたしたちに見抜かれるくらいだから、税理士にはわかるし税務署でもわかるはずだ。
わからなければ税理士をやる資格はないし、税務署としても問題だ。
しかし、それを指摘して顧問税理士を解任されたり、税収がなくなることは避けたいのだろう。…としか思えないのだが…。いつまで経っても決算書の改竄はなくならない。

このことは経営者としても問題は大きい。
経営は、青色申告をしていれば期をまたいでも継続しているのだから、何期にもわたって改竄をしていると二重帳簿をつけていても経営実態がわからなくなってしまうのだ。

上場企業などの大企業は知らず(といってもライブドア事件やオリンパス事件のときなどに判明していることから類推するに同じようなもののはずだが)、中小零細企業の決算書の改竄という悪癖は直さなければならない。

これを直すためには、金融機関は欠損を出しても融資契約を変えないようにし、公共事業でもたとえ決算書上欠損を出しても受注契約上の資格を喪失することのないようにするしかないだろうが。

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