NYC Jazz紀行 ⑤ 12/30/2013 Eric Alexander Sextet at SMOKE
この日はわたしのNYCバケーションの最終日だ。
午前中にミッドタウンのMoMA(Museum of Modern Art)に行ったが、この年末の休暇時期のMoMAは人であふれていた。
この間のNYCはMoMAに限らず世界中から(アメリカ中から)いなか者たちが集まっていた時期だったのだ。まぁ、そんな時期に来たわたしが悪かったのだが、ジャクソン・ポロックを見ている後ろの方から「何やっとんねん、このドアホが!」というような声が聞こえてくるのは、あまり楽しいものではない。
ホテルへの帰り道に[Metro Diner]という店(Broadwayの100th Streetの角)に入った。
今回は朝食の時にしか入らなかったので、ブレックファーストのメニュー以外のメニューも食べたかったのだ。
このMetro Dinerは、1800年代後半からアメリカの主に東海岸沿いに大流行したプレハブ(移動式)屋台のレストラン(ランチ・ワゴン・スタイルの伝統をつくった)で、ファストフード店に駆逐された昔ながらの“ダイナー(もしくはアメリカン・ダイナー)”のスタイルを復活させたものだ(とメニューに大々的に書いてあった)という。
なるほど、メニューにはサンドイッチにハンバーガー、パンケーキにフレンチ・トーストやワッフルなど、いかにもアメリカ的な食物が並んでいる。
わたしにとっては、このスタイルこそがアメリカの食い物屋で、アメリカ的な食い物だ、という先入観が強い。
[BLTサンドイッチ]をたのむ。案の定すごい量のフライドポテトがついてきたが、なんとか80%は食べることができた。
店員たちは、(何の根拠もないのだが)イタリアの移民のようで人懐っこいけど、でも腹は割れないという雰囲気を漂わせていた。
(密かにリトル・ロバート・デ・ニーロと名付けていた) ひとりの店員が話しかけてきた。「どこから来たんだい?」「日本。トーキョーだよ」「オレも日本は行ったことがある。知ってるよ」「どこにいたの?」「横浜とか佐世保とか…、そうだ、パチャンコを知ってるよ」「パチャンコってなんだろう…、パチンコかな」「そうだ、そうだ」。
パチャンコの手つきが、電動のものではなく右手の親指ではじくものだったから、朝鮮動乱のころに兵役で行ったのだろう。大笑いさせられたものだ。
例によってホテルで昼寝をしてからSMOKEに歩いていく。この夜は寒さが増してこのNYC行きで最も寒い夜だった。
昨日で懲りたので、かなり早めに着くとステージから三列目あたりの席に案内してくれた。バーテンは昨日もいたケヴィンだ。いい男だが、ちょっと色悪風。
早く着いたので、食事もゆっくりとれる。とはいうもののMetro Dinerで食べてからあまり時間が経っていないので、もうたくさんは入らない。このSMOKEは以前はもっとカジュアルで、初めて来たときにはキューバン・サンドイッチを食べたことを覚えているが、今回のメニューにはそういうものはなく、全般的に高級化していた。その中からピザを食べる。
ステージに三々五々ミュージシャンが集まってきて、楽器の準備をし始める。
ここのドラムスのセットはカノウプス(Canopus)。メイド・イン・ジャパンだ。
プロモーションを兼ねて置かせてもらっているのだろう(先日のSmallsもこのCanopusだった)。いい姿のセットにジョーがシンバルをセットしている。
わたしはこの時間帯を見るのが大好きなのだ。
日本の高級ジャズクラブ(ブルー・ノート東京やコットン・クラブなど)ではこうした景色は見られず、セットアップされた楽器を持って黒服の店員に案内されて花道をステージに向けて行進してくるのだ。
昨夜は一番遅く入ってきたエリックが今夜はいち早く準備ができていた。ジェレミーも準備はいつも早い。ビンセントとハロルドが遅れている。エリックがピアノの前に座ってポロポロはじめた。そんな姿を見られるのがNYCのジャズクラブなんだ。
入りの遅れていたビンセントとハロルドがそろった。エリックがビンセントに腕時計を見せて文句を言っていたが、ハロルドには言えなかったようだ。
ジェレミーのトランペットは、一昨日のマイク・ディルーボのアルトみたいに黒光りしていて、見たことのない形をしている。
チューニング・スライドは鋭角的だし、ウォーター・キーも変な形をしている。
明らかにカスタム・メイドのトランペットだ。あとで調べたところ、これはトランペットのカスタムモデルをつくっているハレルソン・トランペッツ(Harrelson Trumpets)という会社のカスタムのようだった。クルマでいえばコーチビルダーのようなものだろうか。
バックやマーチンなどのモデルをモデファイしたものか、全くのオリジナルかはわからないが、ハレルソンでは管体はもちろん、ピストンやマウスピースなどもオリジナルでつくっているようだった。
全員がそろってのオープナーは[ジャイアント・ステップス]ジョン・コルトレーンの曲だ。難曲と言われているが、軽々と演奏している。テーマは明らかに編曲が施されているから、このステージのためにどこかでリハーサルをやったのだろう。
エリックはダイナミックで野太い。ジェレミーは繊細で美しい音だ、ビンセントはウエットな音を響かせている。
二曲目はエリックがマイクを持って、ビンセントが長いソロをとるとアナウンスして[ライムハウス・ブルース]。キャノンボールで有名になった曲だ。途中、キャノンボールが乗り移ったかのような流麗なアドリブを展開する。聴いていて震えがくるようだ。
ジェレミーとエリックはマイク・ルドン(Mike LeDonne:Piano)がリーダーの“Five Live”というユニットを持っているので、これまたおなじみの仲間だ。このメンバーで来日した時にわたしは聴いている。
ジェレミーのプレイは、じつにリリカルでエモーショナルだ。
テーマではしっかり自分のパートを吹き、ソロに入ると次から次に華麗なフレーズが出てくる。その自在な感じがどうにもすごい。聴いていると、熱いプレイから一気に柔らかな表現に移行してくるような、わたしたちオーディエンスが引きずり回わされるような感覚に陥れられる。それが快感なのだ。
後半一曲だけミュート(ペラペラなアルミのハーマン・ミュート)を着けた。枯れたいい音だ。ジェレミーは豪快な音で表現するよりも、繊細な音色の方がいい。ミュート・プレイは最もいい。
わたしはジェレミーのフリューゲル・ホーンの音が大好きなのだが、めったに持ち替えてくれない。以前このSMOKEで一度だけしか聞いたことがなのが残念だ。今回もはなからフリューゲルは持ってきていなかった。
ジェレミーのミュート・プレイは、ミュートの中央部をマイクロフォンに押し付けて吹く。マイクロフォンがスタンドごとぐらぐら動く。それでいてプレイそのものはゆるぎない。実にいい感じだ。
この日もステージは、7:00p.m.、9:00p.m.、11:30p.m.とスリーステージある。その第一回目だったせいだろうか、実質60分少々で終わってしまったが、大満足で帰ってきた。
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