倒産と優先債権

倒産に関して、[税金]と[社会保険]と[労働債権]は優先債権とされている。
このことの実態を説明するのは非常に難しい。
以下、仮のケースで説明を試みることにする。

ある倒産会社の債務として、税金が[300万円]、社会保険が[600万円]、労働債権が[800万円]あったとする。
それ以外の一般債務(買掛金や借入金や一般管理費など)は当然あるが、それれは優先債権でないためにここでは除外する。
一方売掛金がA社に[500万円]、B社に[1,000万円]あったとする。

その倒産会社は法人の破産を申し立てた。
この[法人の破産]のケースでは将来的に破産管財人が地方裁判所から任命され、その破産管財人が優先債権の処理をする(このケースでは優先債権の合計から売掛金を差引くと、マイナスが100万円でる)ことになるのだが、実際は優先債権の債権者が破産管財人が決まる前に売掛先に支払を求め、応じなければ差し押さえをすることが一般的だ。

税務署は、A社の売掛金(500万円の内300万円)を請求(差し押さえ)した。
社会保険事務所はB社の売掛金(1,000万円の内600万円)を請求(差し押さえ)した。
労働債権は申立て代理人の弁護士がB社の(1,000万円の内800万円)を請求(差し押さえ)した。

Bの売掛先にはふたつが請求(差し押さえ)をしかけてきて、バッティングしている。
A社は税務署に売掛金を提出した。200万円の売掛金の残が発生しているが、これは破産管財人か一般債権者が請求にくるまでは預かることになる。
B社は、バッティングしているため支払を拒否し、正規の権利者(破産管財人)が現れるまで支払わない、と言い出した。

このケースでは、破産管財人が決まってから、ほとんどの処理ができた。
A社の預かりは、破産管財人が受け取り、優先債権先に支払われ、マイナスの100万円は、社会保険事務所が折れて諦めた。

以上は、仮のケースだがごくオーソドックスな処理方法と見ていただいていいだろう。

このような順当でないケースについては以下の点を考慮していただきたい。

・優先債権の中でも順番はあるのか。
基本的にはない。同列である。
が、話し合い(交渉)の余地はあるようだ。

税務署、社会保険事務所(両方とも公務員だがサラリーマン)対労働債権(弁護士)、の戦いになることが多い。
早い者勝ちのような処理もあり得る。
少なくとも労働債権に関しては(正規の金額であれば)確保して分配してしまえば、破産管財人が出てきても否認されて返還を求められるようなケースは見たことがない。

・労働債権は申立て代理人の弁護士でなければ対応できないか。
労働債権確保のために社員や役員たちが売掛先に行くことがよくあるが、売掛先の債務者は正規の権利者に支払いたいので、申立て代理人の弁護士や破産管財人が出てくるまでは支払を拒否(留保)することがよくある。
そうなると、労働債権の確保が遅くなるばかりだから、早く有能な弁護士確保することが、結果としてスピードアップにつながる。

・売掛先がなぜわかるのか。
決算書には売掛先(と買掛先)の住所が記されている。
そのために、債権者は決算書が入手できれば直に請求や差し押さえができる。

以前見たケースでは、金融機関が決算書に出ている全ての売掛先に差し押さえをかけたことがあった。
おそらくは差し押さえ費用として数千万円を積んだと思われるようなことは、現実には起こりえることなのである。
これが嫌で、決算書に嘘の住所を書くという経営者に会ったことがある。

・優先債権は上のように整然と処理されるのか。
現実的には、時間が勝負になることが多い。労働債権に関しては申立て代理人の弁護士が優秀でないと税務署や社会保険事務所に先を越されてしまうことがよくある。
さらに、交渉力が備わっていない弁護士だと、先に取られてしまった売掛金を取り戻せなくなることもあり得る。

・破産管財人が出てくれば絶対か。
これも、破産実務に習熟していればともかく、そうでない若手弁護士の破産管財人だと、税務署や社会保険事務所にいいようにあしらわれることもよく見る。

・売掛先(債務者)は素直に支払い応じるのか。
これは難しい。
破産管財人が出てきて、支払わなければ裁判にするぞ、と脅しをかけるとかなりの確率で支払に応じるが、「ウチも被害者だ」などとごねて、なかなか支払ってはくれないのが一般的だ。

・申立て代理人の弁護士をどう探したらいいか。
倒産処理ではこれがいちばん難しい。
そもそも、中小零細企業のことに理解を示し得る弁護士がほとんどいないのだ。
少なくとも、何回も相談して、納得ができるまで質問を繰り返すしかないだろう。

わたしの直感だが、中小零細企業の倒産処理ができる弁護士は、十人に一人くらいしかいないと思っていた方がいい。
最も間違いがない方法としては、わたしの事務所を相談に訪れていただきたい、というしかないのだ。
[弁護士(申立て代理人)の紹介]も参照していただきたい。

・任意整理でも同じか。
以上述べてきたことは、最終的には破産管財人が出てくる[法人の破産]の処理方法だ。
任意整理の場合は、ほとんど無法地帯のようなことになることが一般的であり、上に述べたように整然とは処理されることはない。

・優先債権が確保できるまでの時間はどれくらいかかるか。
このブログを読んでいる方は[労働債権]側だと思われる。その労働債権が確保できるまでの時間はどれくらいかかるか。
要は、売掛先の対応にかかっているので、最短と最長があり得る。

最短でいえば、倒産が確実になった段階で弁護士が社員を伴って売掛先に行き、説明して売掛金を支払っていただければ、倒産後数日で可能になる。
しかし売掛先が応じなければ、破産管財人が出てきて交渉するまで待たなければならない。
その場合は早くて一ヶ月先、裁判沙汰になって遅くなれば半年先~一年先になることもあり得る。

・売掛先以外の債権を確保する方法はないか。
わたしが見てきた限り、倒産会社の[現預金]やすぐに換金できる[会社の財産]があるケースはほとんどない。
[売掛金]に期待するのは、請求書は出ている(受理されている)のに支払日が来ていないために支払が受けられない債権だからだ。

もちろん、それ以外の現預金や会社の財産があればいいが、それらを労働債権に対応させることができるとしたら、それは経営者個人の裁量によるところが大きくなる。
その場合は、いい経営者に恵まれたかどうかが分岐点になる。

※ このエントリーは、2012年12月28日に作成したものだが、より判りやすくするために2014年4月2日に修正した。

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