倒産処理の実際例 ①ある根抵当権設定物件の行方
※以下は実例だが、同様の事例が同じような経緯を経ることは必ずしもない(ほとんど起こらない)、レアケースであると受け止めていただきたい。
地方銀行に根抵当権設定を行って破綻した事業経営者があった。
根抵当権設定不動産は東京都内の四階建ての鉄筋コンクリートのマンションの土地と建物(築二十年以上)。
その一階と二階を自宅と事業所に使用していたが、三階と四階は貸していた。
この不動産に根抵当権を設定して受けていた融資は、地方銀行のプロパー資金で残債は1億5,000万円ほどだった。
この経営者の事業は破綻して、法人の破産と個人の破産を東京地裁に申し立てた。
小額管財対象で、予納金は20万円ほどだった。
根抵当権の権利者である地方銀行は、このマンションを競売に付した。
このマンションの市場価格は4億円ほど。
最初の競売落札最低価格は2億8,000万円だった。
しかし、いっこうに競落されることはなかった。
その原因は、三階と四階が賃貸であったことだった。
各四部屋、合計八部屋が賃貸されていたため、この不動産を競落しても、新たな権利者がそのマンションを建て替えるとしたら居住している方に多大な費用を払って出て行っていただくか、そのまま使うには賃貸収入だけが入ってくる物件(一階と二階をリフォームすればそこからの賃貸収入もあり得るが)を取得したことになる。
このマンションは老朽化していたので、現行の家賃10万円では借主を安定的に確保することは難しいだろうといわれていた。
そのため、落札者は(入札者も)現れなかった。
その間、二年半。
権利者の地方銀行は、この賃貸料を差し押さえることはしなかった。
このことはわたしの理解を超えることではあるが、実際この賃借料は管理会社に振り込まれていた。
10万円×八部屋×二年半=2,400万円。
これがこの破産者の手元に残った。
競売落札最低価格はその間どんどん下がって1億5,000万円にまでなっていたが、競落者は現れなかった。
そして、権利者である地方銀行はこのマンションの競売を断念した。
もちろんこのような条件の悪い物件は任意売却もできなかった。
権利者である地方銀行は破産者にこのマンションの買い取りを求めた。
金額は5,000万円。
破産者は、当然のことながら破産したのだから財産はなく、買戻しに応じる資金がない旨を弁護士を通して権利者である地方銀行に伝えて交渉に入った。
結果として、2,500万円での買戻しが決まった。
この間、金融機関はなぜは家賃収入を差し押さえなかった(その理由は判らない)。
そのその買戻し資金に、管理会社に振り込まれていた賃借料2,400万円が充てられたことはいうまでもない。
わたしと代理人になった弁護士が、この破産者からおいしいものをご馳走になったことを報告しておく。
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