計画倒産と「計画的倒産」について
本記事は才藤が執筆しております。
経営危機に陥った経営者からのご質問が非常に多い【計画倒産】について、2回に分けて記します。前回は以下の記事をご覧ください。
計画倒産は犯罪なのか
本記事は才藤が執筆しております。 経営危機に陥った経営者からのご質問が非常に多い【計画倒産】について、2回に分けて記します。次回は以下の記事をご覧ください。 いったい計画倒産とは何なのでしょうか? そして、 […]
いったい「計画倒産」と「計画的倒産」は何がどう違うのでしょうか。何が問題になるのでしょうか。
計画倒産と「計画的倒産」
「計画倒産」という言葉を、よくお聞きになるかと思います。これはどのような意味なのでしょうか。弁護士などに確認すると、
計画的に詐取しようという意思を持って会社を設立して倒産を迎えること
と定義され、それは詐欺であり犯罪だ、といわれるようです。一般的には、
会社の設立後、その会社が買掛け(仕入れ)をして、その買掛商品を換金して倒産する
というような手口のことです。いくつか例を挙げましょう。
- もともと支払いの意思がなく、支払いが出来ないことが分かっていなが仕入れを行い、格安で売りさばいたお金を手元に残し倒産をむかえる
- 金融金へ運転資金へ粉飾決算をもとに返済の意思がないのに運転資金の融資を申込み、得た融資は資金使途のとおり使わず、手元に現金を残して倒産をむかえる
このようなケースではないでしょうか。しかしながら、刑法に計画倒産罪という罪状はなく、計画倒産自体は法律用語ではないようです。
まれに、上記のように犯罪を志向して会社を設立する例はあると思いますが、健全な経営者であればまっとうに事業をしようと会社を設立するもの(つまり倒産を意識して会社を設立するものではない)と断言できます。
しかし、もし事業が悪化して倒産が避けられないような段階に至った場合、
- 会社にある現預金を、優先的に処理したい債務に充てる
- 会社の資産を換金して、優先的に処理したい債務に充てる
など、ある程度の計画を持ってその倒産の事態を迎えることは、経営者としてごく当然の判断です。
それは、犯罪としての計画倒産ではなく、経営者の健全な判断による「計画的倒産」と言うべきではないでしょうか。
経営者としては、社員の給与などの労働債権を残したまま、あるいは外注や下請け会社が連鎖倒産する可能性が高い状況で、自社の倒産の事態を迎えることは、どうしても避けたいことですし、それは当たり前の判断です。
計画的倒産の問題点①〜詐害行為と偏頗弁済
ただし、この「計画的倒産」を進めるにあたり、避けられない倒産を目前にして、
- 借入れをしてそれを隠蔽する
- 仕入れをしてそれを換金して隠蔽する
ことは、禁じられた行為です。
これはいわゆる、詐害行為と呼ばれるものです。
詐害行為(さがいこうい)とは
経営危機コンサルタント・内藤明亜のブログです。 今回は、「破産申立て」をするに至った経営者が気をつけるべき問題【詐害行為(さがいこうい)】について解説します。 倒産に際して、 ・連鎖倒産を防ぎたい ・お金を貸してくれた親 […]
さらに、避けられない倒産を目前にして、
- 特定の借入先に返済する
- 特定の買掛先に支払いをする
ことも、禁じられた行為と言われます。これはいわゆる偏頗弁済というものです。
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは
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ちなみに、詐害行為も偏頗弁済も、それが発見された段階で処罰されるという性質のものではありませんが、破産申立後に破産管財人によって否認された場合、返還を求められることがあります。また、申立て代理人となる弁護士には、「詐害行為や偏頗弁済があると受任できません」と言われることがあるようです。
しかしながら、倒産直前に借入れを起こしても、その借入金の使途が認められれば(あるいはほとんどが会社に残っていれば)それは問題にはなりません。
また、仕入れの買掛金が残ったとしても、仕入れた品物が転売されたりしていなければ、それも問題になりません。
計画的倒産の問題点②〜倒産と回避の分岐点の見極め
そもそも「避けられない倒産」を予感した場合、手をこまねいたままただちに破産手続きに入ることの方が不自然というものです。まして、その前段階の「経営危機状態」にあって、気になる債務に対処しておこうと考えるのは、経営者として健全な判断です。そして、
- 避けられない倒産の事態
- その前段階の経営危機状態
といった段階では、経営者は倒産を回避するために、さまざまな手段で資金調達を図るものですが、多くの倒産は、その資金調達ができなくてやむを得ない形で倒産の事態に至るものだということはご理解いただけましょう。実は経営危機の段階で、資金調達をすれば倒産が回避できるか否か(資金調達で事業継続できるか)の判断は、もっとも重要な経営危機のポイントなのですが、多くの経営者が、この判断を誤って悲劇的な倒産を迎えているのを、わたしは多くの相談対応の現場で見聞しています。
詐害行為と判断されずに資金活用することは可能
わたしたちが知る、倒産事案を多くこなしている有能な弁護士は、避けられない倒産が予知された段階からは、詐害行為にならないぎりぎりのところで最後に残った資金の有効な活用使途をアドバイスすることが可能です。もちろんわたしたち自身も、この部分のアドバイスは欠かせない対応の一つであり、申立て代理人の弁護士に万が一イヤな顔をされても、できる限りその可能性を追求します。
要は、”見逃しの三振”は絶対にしたくないのです。
もし破産申立後に、破産管財人に否認されたら、その部分だけ返却すればいい場合がほとんどなのですから。
経営者であれば、優先債権の「税金や社会保険」と「労働債権(給与などの人件費)」の、いったいどちらを優先するかはいうまでもないでしょう。
もちろん、労働債権を確保する手立てをしたうえで、倒産の処理に入らなければなりません。
そのためには、会社にある財産をどうするかについての綿密な計画と作業が必要になり、自ずと一定の時間が必要です。そうでなければ、
- 社員の労働債権が守りづらくなるし
- 恩のある借入れの返済ができなくなるし
- 小規模零細企業の連鎖倒産を止めることはできない
からです。そしてそれは決して「計画倒産」ではないと、倒産経験のあるわたしたちは考えます。それは単に、「経営危機の最後の段階(倒産の意思決定の直前の段階)」を「計画的に」進めただけだからです。
つまり現実問題として、計画倒産かどうかを意識することが重要なのではなく、詐害行為や偏頗弁済にならないように意識して処理を進めることが重要なのです。
それは、とりもなおさず申立て代理人の弁護士と破産管財人のせめぎあいということになります。
破産申立て代理人弁護士の選び方・5つの条件〜経営者の立場に立ってくれる弁護士を選ぶ
経営危機コンサルタント・内藤明亜のブログです。 倒産処理を決意した経営者から多く寄せられるご質問【破産申立て代理人弁護士はどう選んだらいいですか?】についてお答えしたいと思います。 倒産処理(法人の破産申立て)を委任する […]
破産管財人に対して、依頼人を守ってくれる申立て代理人の弁護士でなければ経営者は浮かばれませんが、実はそのようにして小規模零細企業の立場に立って戦ってくれる弁護士は非常に少ないのが現実です。そして、それを実現するためには、針の穴に糸を通すような緻密なチェックを経なければならないことがほとんどです。例えば、
- 時間的な問題
- 金額的な問題
- 名目的な問題
などを、十分な経験を持った申立代理人弁護士が精査する必要があるのです。ただし倒産という事態を迎えると、債権者に「それは、計画倒産だ」と言われることは、どうしてもあります。債権者にしてみれば、
- 事前に知らされることもなく(事前に知らせるとどうしても混乱が起こるので、知らせることはできません)、
- 予兆も感じていなかった(そうした予兆も感じさせてはなりません)
のですから、計画倒産と言われてしまうものなのですが、こればかりは致し方ありません。
申立代理人弁護士にとって、実はたいへんデリケートな問題
今回解説した計画的倒産をはじめ、詐害行為や偏頗弁済に関する経営者からのご質問やお問合せはたいへんに多いものです。
それだけ切羽詰まった経営者にとっては切実な問題と言えましょう。
一方これらの問題は、破産の申立て代理人の弁護士にとっては、たいへんデリケートな要素をはらんでいるのも事実です。なぜなら、申立て代理人にとっては、この計画的倒産や詐害行為、偏頗弁済に抵触しそうな案件は、非合法なことではないものの、
- 破産管財人とやりあう局面も想定できる
- 場合によっては弁護士自身への【懲戒請求問題】にも及びかねない
面があるからなのです。
ですから、経営者の皆さんがせっかく自力で探した「倒産問題に強そうな弁護士」であっても、初対面の場合、とうてい真正面からは取り合ってくれないテーマであることに注意すべきです。
そして、この問題に関しては、申立て代理人の弁護士や破産管財人から情報が出てくることはないでしょうし、「こうすればうまくいく」といった情報もおそらくはネット上には皆無と思われます。
申立代理人弁護士にとっては、そのようなデリケートなテーマであることはどうかご理解いただきたいと思います。
当事務所は計画的倒産にいかに対応しているか
本記事をご覧になり、「ご自分が現在考えていることが計画倒産に該当するかどうか」をお知りになりたければ、ぜひ時間がある段階で一度、当事務所にご相談にお越しいただければと思います。お話を伺った後、かなり明確にそのガイドラインを示すことができると思います。
当事務所が関わった1000件を超える案件は、可能な限り詐害行為や偏頗弁済を回避してきましたし、計画倒産だと破産管財人に指摘されたことは一度もありませんのでご安心ください。
当事務所は、
- 相談に来られた方の利益を最大化する(不利益に陥らないようにする)こと
- 倒産後も経営者に再起・再建の道を見出していただくこと
を最も重視しています。いままで、
- 店舗や事業所をリースバックなどの手法で確保して、倒産後も事業が継続できたケース
- 偏頗弁済に抵触しそうだったが、抵触することなくクリアできたケース
- 以前相談した弁護士に「詐害行為だ」と指摘されていたが、クリアできたケース
- 数千万円の再起費用を確保して倒産処理を終わらせたケース
などを、合法的に実現できた方がたくさんいらっしゃいます。
これらは、たいへん綿密な計画を立てて実現しなければならないことですが、決して不可能なことではありません。いずれにしても手遅れになる前に出来る限り早めの相談をお勧めします。
また、申立て代理人の弁護士のご紹介をご希望でしたら、上に述べたような配慮ができる弁護士の先生にお願いするようにしています。当事務所にご相談に来ていただければ、多くの場合お力になれると思います。
執筆: 才藤
(初出:2014年1月16日、修正:2020年12月30日、最終修正2024年8月1日)
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