インフルエンサービジネスの倒産事例
本記事は才藤が執筆しております。
インフルエンサービジネスを行っていた、とある企業の倒産事例についてお伝えします。
倒産に至る経緯
依頼人は男性。創業から数年で一時は10億前後の売上げまで急速に事業を成長させてきました。アパレル小売りで、まだ当時は世間に認知されていない、いわゆるインフルエンサーを起用したマーケティングが上手く行き、急成長の大きな要因となりました。
業種は小売業で売上の約7割がインターネットから、残り3割は店舗からという売上構成でした。
国内だけでなく海外からの評価も高く、とある商品については海外売上げが国内を越えて伸び続けており、まだこれからという時、突如売上不振に陥ることになってしまいました。
依頼人曰く、インターネット経由の販売が不振に陥ってしまったため、店舗販売と違い現場で何が起こっているのか把握しきれなかった、とのこと。不運は続き、不正クレジットカード利用が多発して売上金の回収が激減してしまいました。
このような状況の中、事業の中核と言っても過言ではないインフルエンサー兼共同創業者との確執が深刻化していきます。
悪いことは重なるものだとつくづく思うのですが、これほど重なりすぎるとメンタル的にまいってしまうだろうと不憫にさえ思いました。初めて対面してお話をお伺いしたとき、本人の顔は赤く、少し涙目で不安そうな表情だったことを覚えています。
経営危機の原因について
依頼者はインフルエンサーにビジネスのコアを握られており、権利関係の整理に無頓着でした。
- ブランディング、集客方法をインフルエンサー個人の能力に依存していた
- 顧客はインフルエンサー個人のファンが多かった
- インフルエンサー本人はブランドの生みの親、インフルエンサーマーケティング、役員を兼務しており、実質中心的な経営者だったが、形式上代表は依頼者になっていた
- 依頼人が経営者として経営を統括しきれていなかった
- 事業とバックオフィスの権限が分離し、互いを把握できていなかった、このケースの依頼人はバックオフィス側
- バックオフィスの社員はインフルエンサーが何をしているのか知らなかった
- サービス商品の権利関係(商標登録など)は会社ではなくインフルエンサー個人に帰属させていた
仮に既存のサービスや商品のマーケティングとして外部のインフルエンサーを利用するケースならば、また新たなインフルエンサーを探せばいいだけの話で済むかもしれません。しかし、このケースはインフルエンサーが全てと言っても過言ではなく、経営者のコントロールが及ばないため、言われるがまま好きなようにされていたという側面もあったようです。
経営方針の対立やプライベートの問題からインフルエンサーと依頼人の人間関係が悪化し、修復不可能な状態になっていました。インフルエンサー側が資金繰り悪化の事に頓着せず(知らなかったか、知ろうとしなかったかは不明)、会社の資金を好きなように使っていたことも倒産の時期を早めたのかもしれません。
コンサルティング開始、Xデー(倒産の日)までの流れ
不思議なことに、金融債務の連帯保証人は依頼人のみとなっていました。インフルエンサー側としてはだますつもりはなかったかもしれませんが、その意図を邪推されてもおかしくないような状況です。
コンサルティング依頼時、不正クレジットカードの決済などの影響もあり慢性的なキャッシュ不足は深刻で、仕入れ先への支払いにも遅延が発生している状況でした。決算書からみても債務超過は明らかで、あと1~2月持ち堪えられるかどうか分からない状態でした。
倒産(法人の破産)の[Xデー]、三つのステップ 【改定】
[倒産の日]を指す[Xデー]については以下の要素があるが、これらはすべて〝同じ日〝でなければならないとは限らないのである。 ①事業を止める日 ②代理人(弁護士)介入(債権者への連絡) の日 ③地方裁判所への破産の申し立て […]
依頼人は周囲からの信用が厚く、何人かの知人から資金調達もしていて、まだ他の知人らから借りることはできると言ってはいたが、返済の目途がないまま借りても傷口が広がるだけなので、今後の再起のことを考えるとこれ以上は止めたほうがいいと助言したところ、破産へ進む決心が固まったようでした。
よくよくお話をお伺いしたところ、借り入れをしていた個人投資家を名乗る何人かは、素性がよく分からないことが分かりました。わたしたちの経験上、このような借り入れがある場合、自宅に返済を求めて押しかけてくるなどのリスクが考えられたので、身の安全を考える必要もありました。
そこで暫くは自宅へ戻らずホテルかマンスリーマンションでの生活を送るように手配を行いました。身の安全も考慮して、Xデー当日も依頼人は事務所ではなく別の場所で待機し、従業員への通知はメール・Lineを通じて行う方針にしました。
約6回の打合せを経て最終的な方針が決まり、弁護士へ引き継ぐ準備が整い、Xデーの段取りが決まりました。初回の相談から約2か月半の期間を要しました。
本件の手続きの間、我々はインフルエンサー側と接触することはできませんでした。
Xデー当日に何がおこったか?
Xデーの朝はわたしはある店舗の引き渡しで社員と同行しましたが、店舗管理者が手馴れているのか早々に業者を手配して店舗の仮囲いを設置して張り紙(店舗改修)を準備することになったので、結局何もすることなく立会いは終了しました。
依頼人は現地債権者が押し寄せてくるではという心配をされていましたが、その心配をよそに代理人の弁護士事務所への債権者が訪問してくることもなく、電話問い合わせも数社しかなく平常時のような静かさでした。その翌日もこれといった混乱もなく過ぎて行ったと代理人の弁護士から聞きました。
混乱がなかった理由として、取引先は事前に倒産するのでないかと薄々気付いていたからではないかと思います。
後で聞くと従業員も気付いていたが口に出さないだけだったというのはよくある話です。
Xデーに何が起こるかというと、金融機関か取引先の担当者が事情を聞きにくるぐらいで、大騒ぎになることはほぼありません。代理人の弁護士が債権者対応をするため、会社の代表者は謝罪するぐらいでそれ以外は横に座っているだけというのが現実なのです。
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Xデーのその後
倒産後、インフルエンサーは別のSNSアカウントを開設して活動を再開したようです。登録者数の減少はあるものの何割かは継続して残っているようでした。
これを見ると会社のコアはやはりインフルエンサーだったのかと本当の実態が見えたように思います。倒産で会社はなくなりますが、インフルエンサーは人なので存在し続けます。
顧客の大半はインフルエンサーのSNS上に何十万人の登録があり、それは売上の源泉と言っても過言ではありません。これは会社の財産なのか、インフルエンサー個人なのか、どちらとも言えるのかわかりません。
いずれにせよ、会社は倒産しました。それでも、社長の人生は続いていきます。
一般的に倒産後、社長は再起不能になると考えられていますが、実際はそうではありません。他の事例として才藤の事例をご覧いただければと思います。
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本件は選択肢が少なく期限が迫るなかでの倒産、すなわち切迫倒産となってしまいましたが、それでも傷を最小に抑え、再起の可能性を十分に含んだ破産処理へと向かうことができました。
経営者は孤独です。
一人で悩まずわたしたちにご相談下さい。
執筆: 才藤
(初出:2024年9月20日)
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