ある倒産への道程(プロセス)

その依頼人がわたしの事務所を訪れたのは、一年ぶりだった。

一年前に訪れた時、わたしは直ちに破綻処理が必要だと申し上げたのに、そのときの経営者の意思は、〝もう少しがんばってみる〝というものになった。
その一年前と今回訪れたときとの違いは以下。

【一年前】     【今回】

売上金額     14,400万円  13,200万円
(月次)       1,200万円   1,100万円
売上総利益     4,800万円  4,200万円
(月次)          400万円    350万円
営業利益    -2,160万円 -3,000万円
(月次)        -180万円   -250万円
―――――――――――――――――――――
未払い税金      100万円    200万円
未払い社会保険   100万円    300万円
未払い買掛金     200万円    600万円
未払い給与       0万円    200万円
短期借入金     1,000万円   2,000万円
長期借入金     2,000万円   3,000万円
未払い一般管理費  100万円    300万円
【 合 計 】   3,500万円   6,600万円

業種は広告関連の企画制作業の株式会社。
資本金は1,000万円。創業10年。
代表取締役は56歳(自宅不動産は根抵当権をつけられている)。
社員数は6人。平均年齢は45歳。

一年間で債務はほぼ倍増してしまった。

営業利益が[-3,000万円]もある以上、その分はそっくり資金不足になり、債務額が[3,100万円]増えたということになっている。
これは、12ヶ月で割ると毎月250万円ほども債務を増やしたことになる。

倒産回避の努力が債務を増やしてしまったのである。

さらに悪いことに、一年前にはなかった[給与]の未払いまで発生している。
ここには現れていないが、増えた長短期の借入金[2,000万円]を確保するために連帯保証人を一名増やしその連帯保証人保有の不動産に根抵当権を設定してしまったことがある。
すなわち、この一年間で〝被害(被害者)〝を増やしてしまったのである。

そして、改めて破綻処理に至った。
法人の破産と代表者個人の破産(自宅不動産は金融機関に持っていかれる)を小額管財で。
さらには連帯保証をしていただいた親戚の破産(この方の保有不動産も金融機関に持っていかれる)。

かろうじて売掛金で社員の給与と解雇手当は確保できそうだが、買掛先のほとんどは未払いのまま(かろうじて連鎖倒産しそうなところだけは救済できそうだが…)になりそうだ。

一年前の経営者の判断は、結果的には誤りだったことになる。

このような倒産は実に多い。
すなわち〝too late , too large〝。
もっと早ければ、被害も少なかったのに…、というケースだ。

わたしは、経営のマイナスには加速度がつくと思っている。
いちど経営不振に陥るとそのリカバリーのために、つまり〝マネジメント〝に相当なエネルギーが取られる。そのうえで〝事業の運営〝もしなければならない。

にもかかわらず、その両方にマイナスの加速度がついている場合には、投入しなければならないエネルギーにも加速度がつかなければ、マイナスが増えることは避けられない。
このケースもそのような経緯をたどって倒産に至ったのだった。
わたしは苦々しい思いを抱えて対応していただける弁護士を探しに走った。

初出:2012年12月9日、修正:2021年7月14日、最終修正2024年6月27日)

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