不許可事由がある状況での免責事例について
今回は、当事務所のギャンブルが絡む破産手続き時の免責が非常に困難だった事例をご紹介します。
本記事は才藤が執筆しております。
ゼロゼロ融資という言葉をご存じでしょうか。コロナ渦で行われた、業績不振や資金調達に苦しむ企業を救済するための、実質無利子・無担保の公的な融資のことです。しかし、融資である以上、返済をしなければなりません。返済が開始されて間もない2024年度上半期の首都圏の倒産数は、過去10年で最大のものとなりました。倒産件数は、負債総額1億円未満の中小・零細企業が19%増の1205件で、全体の約8割を占めたそうです。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC211VY0R21C24A0000000/
公的機関による個人への生活費の貸付は、会計検査院の調査によると、貸付額の3割にも上る4684億円の回収不能額が発生しています。
参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241023/k10014616871000.html
本質的に生計が成り立っていない場合、一時的な貸付は延命措置にすぎません。
本記事の内容についても、ゼロゼロ融資等による資金を本質的な業務改善につなげることが出来ず、さらにはギャンブルに手を出してしまったKさんの事例となります。
本来ギャンブルは、後述する免責不許可事由に該当し、免責が認められない可能性が高いものですが、当事務所にご相談いただいた結果、免責を勝ち取ることができました。その経緯や結末について、この記事で紹介していきます。
免責が不許可になる事由とは
今回紹介するケースは免責の不許可事由である、ギャンブルによって負債を増やしたケ―スですが、そもそも免責の不許可事由とはどういったものがあるのでしょうか。
不許可事由は下記のとおりです。(名古屋地裁のHPから抜粋しています。)
1 免責手続とは,破産手続開始当時に債務者(あなた)が負っていた債務につき,法律上の責任(支払義務)を免除するかどうかを判断するための裁判所の手続ですが,例えば,債務者(あなた)に次のような事由(免責不許可事由)があるときは,免責が認められないことがあります(支払義務は免除されません。)。
① 破産手続や免責手続において虚偽の説明・陳述をした場合
② 浪費やギャンブルによって負債を増やした場合
③ クレジットで購入した商品をすぐに換金して負債を増やした場合
④ 財産を隠したり,価値を減少させるような行為をした場合
⑤ 支払能力について,債権者を欺いた場合
⑥ 過去7年以内に確定した免責許可決定を受けている場合
https://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tetuzuki/l4/Vcms4_00000280.html
今回紹介するケースは② 浪費やギャンブルによって負債を増やしたケ―スです。しかし、これらの事由に該当すると免責が絶対に駄目だ、とは一概に言い切れません。実際、当事務所のコンサルティングにより、複数の事例で不許可事由はあったものの免責を勝ち取ることができています。以下に具体例をご紹介します。
倒産に至る経緯と原因について
依頼人Kさんについて
依頼人は、40代前半の男性。人口15万人ぐらいの地方都市で業種は飲食サービス業、事業規模としては10人以下、売上げ規模は2千万前後、独立して2期目。個人事業からカウントして業界歴は8年程度のキャリアでした。 依頼人は脱サラして店を開店するも、不運にも新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言に見舞われ、売上は低調のまま回復の見込みがないという苦境に陥りました。スタッフも抱えていたので、売上がなく固定費さえも賄えない赤字が続きます。 その一方、当初は補助金・助成金、ゼロゼロ融資を筆頭に金融機関からの支援が手厚く、手元には使える資金がありました。
相談者の不在
地方都市特有の人間関係は悩ましい問題です。地域柄もあるのかテナントオーナーや仕入れ先は皆、顔見知りで情報はすぐに飛び交う良くも悪くもとても親密な関係です。このような環境のため、倒産が不可避な状況に至るまで誰にも相談しないで一人で抱え込み、家族にも話が出来ない状況が続いていました。
このように一人で問題を抱え込んで悩んでいる経営者は多いと思います。相談相手は多くは必要ありません。一人でも良い相談相手がいれば心身ともに安定しますし、誤った判断を下すことを未然に防げるかもしれません。但し、良い相談相手がいたとしても最終決断は他人に委ねることではありませんので本人だけにしか出来ません。これが経営者は孤独と言われる所以だといえるでしょう。
当事務所では、自身の倒産経験も活かした、経営者に寄り添う姿勢のコンサルティングを行っています。
依頼人の過ち、ギャンブルの開始
融資の資金使途は事業の為に使うことに限られているので、他の目的に使えないという縛りがあります。 本人は経営難に悩んだ挙句、本業では稼げない厳しい実情を何とかしなければという思いから、隙間時間でオンラインのギャンブルに手を染めました。
本来はこうなる前に、コンサルタントに相談いただければと思います。相談が早ければ早いほど、まっとうな方法で再起の道を発見する選択肢が多数あるからです。
当HPの経営危機相談の実際において、相談内容や再起に向けた選択肢の例を記載しておりますので、是非ご確認ください。
本人はまったくギャンブルとは無縁の真面目な性格の持ち主でした。わたしたちに相談した時、本人からまさか自分がギャンブルをするとは思いもしなかったと赤裸々に告白したほどです。
相談者もおらず、正常な判断が出来ないくらい追い込まれていました。
当時、ギャンブルの始めたては資金が増えたこともあったようですが、徐々に負けが込み、ついには金融機関から借入した運転資金を使い果たすまでになりました。金融機関にはその期の決算書から不自然な資金の減少を指摘され、辻褄の合わない説明ではどうにもならなくなり、事業以外に使ってしまったことが金融機関に知られてしまいました。
事業以外に利用することは約定違反になるので金融機関は当然、見逃してくれません。 金融機関から一括返済を請求されてしまい、窮地に追い込まれ、当事務所に相談へ来られました。
倒産コンサルティングの開始
開始直後の対応
時間の猶予も資金の余力もない状況の中で出来ることを検討し、まず、
- 弁護士の確保
- 弁護士を含めた三者面談・ヒアリング
- 資金繰り状況を把握
を行いました。
その中で、店の営業をギリギリまで続けて出来る限りの売掛金回収に集中する方針を決めました。
仕入れ先には既に未払いがありました。店の運営はコロナの打撃もあり集客の見込みは望めない中、従業員への不払いもありましたが、Kさんの人望なのか従業員は協力的でした。
この段階になるとカードや電子決済より現金取引の方が良いです。現金決済は入金までの時間差がないのと後々は金融機関が先に回収してしまうリスクがあるからです。このような経営危機だけでなく天災等も含めた一般的なリスク管理として、現金による決済は日頃から履歴として残しておくことは必要だと言えます。どうしてかというと、もし経営危機になった時、突然、現金決済になるのは不自然に見られ周りから不振に思われ、余計な取り付けリスクなどを高める可能性があるからです。普段から決済方法のバランスを考えておくことで不測の事態でも平静を保ちやすい環境を作れるでしょう。
時間も資金も切迫する状況下、緊急で行った4回ほど打合せの中で、
- 法人の破産を進める
- 倒産日は3週間後
- 個人の破産については駄目もとでも進める
という方針を決定しました。具体的な対応内容については以下の通りです。
信頼できる弁護士へ依頼
背景にある事情、人間性を管財人や裁判官に理解してもらうことが大切だと判断し、信頼のおける弁護士に依頼しました。
今回のように免責の不許可事由を含む事例だと、弁護士には内心ぞんざいに扱われてもおかしくはありません。また、最初から諦めて対応をしていただけないケースも見聞きしております。
当事務所が今までの倒産コンサルティングの実績で、依頼人の利益のために行動できる信頼、実績のある弁護士を確保できていたからこその対応です。
ギャンブルは明らかに免責の不許可事由に抵触しています。しかし、広範な事情を加味した支援により、当事務所では一見免責の不許可事由に抵触しているケースでも、免責を勝ち取った実績がありました。そのため、個人の破産を諦めず、破産手続きを行いました。後述しますが、一度不許可にはなったものの、諦めることなく即時抗告を行うことで、ついに高裁で免責が認められたのでした。
精緻な免責のロジック構築し、ターゲットを絞った
ここでは公開することができませんが、ヒアリングの結果と当事務所の経験を活かし、精緻なロジックを準備しました。とりうる手段を比較検討した上で、「どこを狙うのか」を絞り、実行しました。
地裁の使い方
こちらも、具体的な手法の公開は控えさせていただきます。ケースによっては使える、地裁においての一つのテクニックがあります。
即時抗告により高裁で免責許可
約10月後、裁判所から法人の破産は終わり、個人の免責については不許可となる通知がきました。しかし、当事務所では弁護士から、管財人は免責を認めても良いと考えていたので、高裁で免責が認められる可能性があると伝えられました。管財人にKさんの人間性や経緯をしっかりと理解してもらうことに成功したのです。 そのため我々は諦めず、即時抗告の手続きを取りました。
結果、高裁からは免責を認めると判断が出ました。
免責が認められた理由は、Kさんはもともとギャンブルをする人ではないこと、そしてコロナというどうしようもない不運があったこと、人間性がまじめで正直であったこと、ではないでしょうか。 わたしたちも免責は流石に難しいと思っていたケースですが、奇跡的に勝ち取ることが出来ました。何もしないで三振するのではなく、振れるバットはふりましょう!
これは当事務所でよく使われるフレーズです。このケースではこの精神が実を結ぶことになりました。もしも結果が伴わないことがあっても決めつけず諦めないで継続することが重要だと身に染みて実感しました。
Kさんのその後
その後のある日、Kさんから電話がありました。同業の仕事ではなく別の業界へ就職が決まったとの報告でした。また、同じ地域では住みづらい事情もあり、隣町に引越ししたそうです。免責が認められたので、今後は給与などの差押えの心配もなく前向きに仕事に邁進できると意気揚々とした口調で話していました。 再起する場合、事業を再開する依頼人が多いですが、このように一旦、生活基盤を安定させるために就職するという手段はとても良いと個人的には考えます。実際、わたしもある会社に社員として3-4年間、リハビリも兼ねて勤めていた経験があります。
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別の会社の経営を見ることは非常に勉強になりますし、社員と経営者の視点や考えが違うことなど、経営者のままでは知らないことが知れたという経験がプラスになりました。
まとめ
ギャンブルが絡み、破産手続き時の免責が非常に困難であった事例についてご覧いただきました。
当事務所に相談いただくケースは、ほとんど法人の破産と個人の自己破産がセットで進められます。法人と違い、個人の自己破産は免責を受けることが最終ゴールです。
免責が受けられないと破産者のままであり、債権は時効にならない限り残り続けます。
わたくしの実体験としても、破産して免責を受けることこそが再起を早める、と強く実感しております。
経営者の個人破産については、こちらの記事でも推奨する理由を説明しています。
経営者は個人破産すべきなのか
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今回以外にも免責不許可事由があったが免責が認められた他のケースがありますので掲載を予定しています。
経営者は常に孤独です。
また破産を経験した人間は多くはなく、良い相談相手を早く見つけることが難しいものです。
一人で悩まずわたしたちにご相談下さい。
執筆: 才藤
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