『地球の歩き方』倒産問題を考える(才藤 投稿)
『地球の歩き方』を創刊した㈱ダイヤモンド・ビッグ社が東京地裁から[特別清算]開始決定を受けたと、5月30日に報じられた。
ダイヤモンド・ビッグという会社は倒産するが、『地球の歩き方』を含む事業は、2021年に学研グループの㈱地球の歩き方に譲渡されており、シリーズの出版を引き継いでいる。
ダイヤモンド・ビッグは出版大手㈱ダイヤモンド社の子会社で1969年9月に設立。新型コロナウイルス感染拡大なども影響し、業績不振に陥っていた。出版事業は2021年に㈱学研ホールディングスのグループ会社である㈱地球の歩き方に譲渡され、2023年3月の株主総会で解散を決議していた。負債総額は、2022年3月末時点で約10億4,977万円。ただし、2023年5月段階の債務は発表されていない。
『地球の歩き方』の、【器(会社)】はなくなるが(変わるが)、【事業(出版)】は続く。という典型的なスキームだ。
元のダイヤモンド・ビッグから学研に適正な価格で譲渡されていれば問題はないはず。ただし、前年3月時点で10億円あるとされているダイヤモンド・ビッグ社の債務が、この間にどのように処理されているかは不明だ。債権者は、適正な配当が受けられなければ問題化されかねない。
こうした、倒産に関わることが発表されることはめったにない。
このエントリーも新聞などのメディア報道とわたしの想像で書くしかない。
この処理方法は[特別清算]手続によると発表になっている。
特別清算であるということは、特別清算会社の資産をもって、全ての債務を弁済することができないことを意味するため、債権者に対して債権をどう処理するかが問題となる。
具体的な方法として、特別清算手続には一般に「協定型」と「個別和解型」と呼ばれる2つの手続形態があるとされているが、煩雑になるのでここでは割愛。
いずれにしろ、債権者集会において、①出席債権者の過半数の同意(会社法576条1項1号)と②議決権総額(≒総債権額)の3分の2以上の議決権を有する者の同意(会社法576条1項2号)が必要となる。この要件は[民事再生法]の適用条件と同じだ。
本来債権者を出さない清算とはいいながら、特別清算は債権者がいる運用だ。
特別清算が破産に比べてはるかに低費用で、短期的に終了するのは、債権者が同意していることが前提なのだ。
今回のケースでは、2022年3月末時点で約10億円あった債務がどうなったか。
一般的に、どのような債務があるかというと、労働債権、税金、社会保険、金融債務、買掛債務、リース、ローン、光熱水費、そして株式などになる。
『地球の歩き方』の出版に欠かせない債権者は(債務を解消するなどで)事前に同意を取り付けていただろう。残った債務はおそらくは金融債務がほとんどだったのではないかと思われるが、金融機関がその債権の処理に同意すれば問題はないが、果たしてどうか。
今回の件は雑駁に言えば、『地球の歩き方』を、ダイヤモンド社が投げ出して学研が引き受けた形になっている。ダイヤモンド社が売って、学研が買ったのだ。学研(売上規模1,500億円)はダイヤモンド社(売上規模140億円)に比べて十倍ほどの事業規模の会社だ。
ダイヤモンド社はしっかり利益を上げたのか、どうか。学研の出費は相当に大きかったのではないか。
その間で、債権者が(同意を得られただろうが)残ったが、債権者の同意を得て特別清算の手続きが取られた、という形だ。
もしこの展開が、[民事再生法]によって行われたらどうだったのだろう。
おそらく問題なく適用が認められ、受け皿会社の学研は特別清算よりも安く買えたことだろう。
しかし、民事再生費用は一千万円を超えるだろうし、再生委員の監視下に置かれることもあり、かつ風評被害も避けられなかっただろうと思われる。
あるいは[破産]によってだったらどうだったのだろうか。
破産になると、会社の財産が売却され、債権者に配当されるという手続きがあるため、時間をおかずに『地球の歩き方』を発行し続けることは難しかったのではないか。風評被害も大きくなる。
このようにすぐに事業を継続する場合には、破産はなじまない。
以上、発表資料が少ない中、かなりの想像憶測で記した。
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