倒産のその日(弁護士介入の日)に立ち会ってきた
それは一地方都市の製造業だった。
売上減に加えて労務問題が多く、経営者は情熱を失っていたため事業停止を決心したのだが、債務超過のため倒産の事態になってしまった。
前夜から弁護士を交えて[Xデー]の対応を相談していた。
・朝イチで社員を集め、「本日で事業を停止する」旨を告げる。
・弁護士事務所から債権者に[事業停止]、[代理人(弁護士)介入]の通知をFAXする。
・その日は、債権者からの問い合わせなどに対応する。
・これは電話もあるし、会社を訪ねてくる債権者もあるだろうと想定して、弁護士が会社に待機する。
・倒産の当事者(経営者)は債権者と接触しないようにするが、当日は会社にいて訪ねてきた債権者には頭を下げる。
翌日(倒産のその日)
10:00a.m.から社員への説明会。
事業の停滞はそれなりに判っていたので、やむなく了承。
[解雇予告手当]が一か月分支給されるのが効いたようだった。
やはり再就職先への懸念が大きかったようだが、会社側としてはなんともしがたい。
とくに高年齢の社員は深刻な顔色を見せていた。
質疑応答がいくつかあったが一時間ほどで終了し、社員は私物を持って退社した。
社員が退社した後、会社の入り口に張り紙をした。
・会社は本日をもって事業を停止した。
・事後処理は、代理人の〇〇〇〇弁護士に委任した。
・弁護士の連絡先は、以下(住所、電話、など)。
・以降は社長に直接連絡は取らないで、代理人弁護士に連絡されたい。
11:00a.m.弁護士事務所から債権者に通知
通知は弁護士の事務所に待機している事務職員からFAXで行われた。
FAXが届いたころから電話が鳴り続けた。
会社の電話にはもう出ない。
この段階から連絡先は代理人の弁護士事務所だからだ。
通知に書かれていた連絡先である弁護士事務所にも電話がかかっていた。
弁護士事務所から、倒産会社に待機している弁護士の携帯電話がかかる。
弁護士は、一般債権者には連絡せず金融機関にだけ折り返し電話した。
「私が代理人の弁護士〇〇です。このたびはいろいろとご迷惑をおかけします。
「本日はこの会社にいますので来ていただければご説明します」
弁護士は金融機関三行に電話していた。
2:00p.m.から金融機関が倒産会社に来る
A銀行が飛んできた。
融資金額が最も多いメインバンクだ。
営業担当と支店長の二名。
会社所有の不動産と社長個人の自宅不動産に根抵当権を設定していたので、被害はほとんどない。
「倒産の当日に弁護士の先生がいらっしゃっていただいて、安心しました」
倒産の原因と負債総額、そして債権者数を確認していた。
「では、粛々と進めますので、どうかよろしくお願いします」
B信用金庫がきた。
信用保証協会付きの融資があるだけだった。
営業担当と支店長の二名。
「びっくりしました。でも代理人の先生がいるのであれば心配はないです」
ここも負債総額と他の金融機関のことを聞いていた。
「では改めて先生の事務所にご連絡しますので」
C信用組合がきた。
ここも信用保証協会付きの融資が少しだけある。
営業担当一人だった。
「この先どうなりますか」
倒産処理の具体的な方法を聞いている。
「当職は(弁護士のこと)は現段階ではまだすべてを掌握できているわけではありませんが、おそらくは法人の破産処理をすることになると思います」
安心して帰って行った。
この間、当事者である社長は奥の方に佇んでいて、金融機関と弁護士の対応には出席しなかった。
あとで聞いたところ、
「ぶんなぐられるかと思った、
「土下座しろと言われるのか、
「頭を下げた方がいいのはわかっていたが、身体が動かなかった」
などと心情を吐露した。
こうした局面で、代理人の弁護士がすぐに対応すれば金融機関はおおむね紳士的だ。
代理人がいないと当事者(社長)に確認するしかないのでやや強面になることはあるだろうが、声を荒立てるようなことはない。
この間も会社の電話は鳴り続けているが、誰も出ない。
不安を抱えている社長。代理人の弁護士と社長の相談相手であるわたしの二人が社長の緊張を緩めようと話しかけている。
訪ねてきたのは金融機関の三件だけだった。
弁護士事務所の連絡すると、十件ほど債権者から電話があったそうだ。
後日、弁護士が事務所にいるときにまた電話していただけるように丁重に返事をしていた。
社長の自宅にも確認した。
電話が数件あったが出なかったとのこと。
社長の家族はこの倒産には全く関係がないので電話には出なくてよい。
夕方になったので、会社を後にして三人で食事をした。
社長の箸はなかなか進まない。
このように、倒産の一日は淡々とすぎていく。
「正直なところ、疲れました」
社長の述懐だ。
はじめて経験する社長は気の休まることもないのだろうが、代理人の弁護士がついてしかもその代理人が会社にいてくれるような場合はほとんど何も起こらない。
ただ、淡々と一日が過ぎていくだけだ。
弁護士とわたしは一泊して翌日いちばんで東京に帰ってきた。
このような修羅場になりかねない局面への対応は、すべての弁護士が対応してくれるわけではない。
この件ではわたしがかねてより信頼している先生であったからなにも心配なくできたのだと思う。
※ 【倒産の現場(社員説明会)に立ち会ってきた】も参照ください。
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